マカロンではなく、なんこつから揚げのような「社会人百合」/カレー沢薫のpixivタグ検隊

文/カレー沢薫
今回のpixivタグ検隊のテーマは「社会人百合」だ。
私の高度なプロファイリングによると、百合は女同士の恋愛、さらにそれが両方社会人という意味なのではないか。
その予想が正しいかどうか、真実を求め我々はアマゾン(ピクシブ百科事典)へと飛んだ。
すると意外にも「社会人百合」というのは「社会人同士の百合カップリング作品に用いられるタグ」だということが判明した。
ちなみにそれ以上の説明は特にない。
つまり、そのまんまだったわけだが、わざわざ「社会人」をつけるのには大きな意味があるのだろう。
まず社会人百合の前に「百合」そのものについておさらいしておきたい。
前述通り、女同士の恋愛を扱った創作を「百合」と言うのだが、その定義は広大であり、性描写はおろか、はっきり恋愛感情とすら描かれていない、女同士の強火すぎる友情や憧れ、執着も「百合」と称されることがある。
男同士で言うところのブロマンス関係も「百合作品」に入れられることがあるというわけだ。
それらは「ソフト百合」と呼ばれたりもする。
我々は推しカプが同じコマに存在するだけで「つきあっている」「もはやこれはセックス」という幻覚をよく見がちだが、それと同じように女ふたりの間に「百合み」を感じたら、それはもはや百合ということなのだろう。
もちろんBLと同じく、百合関係と明言されてないものを「これは確実に百合ですよ」と断言するのは戦の元であるが、何に百合みを見出すかは個人の自由である。
草原よりもスーパー銭湯
僭越ながら、百合情弱である小生のイメージを申し上げると、やはりJK、それもセーラー服が望ましい。
そんなふたりが、学校の屋上で青空をバックにじゃれあったり、かと思えば夕暮れ、誰もいない教室で言葉もなく、そっとキスを交わす、それが俺の考える最強の百合だ。
「令和やぞ」という幻聴が聞こえる。
確かに、そういう百合も存在し、根強い人気があるが「社会人百合」はそういったファンタジックで幻想的な百合とは、かなり異なっている。
未成年百合カップルであれば、近所にふたりが佇むためにだけ存在する「草原」のひとつやふたつありそうだが、社会人百合は草原にはあまり行かない。
そんなところに立っている暇があるなら、明日も早いんだし、帰って寝た方が良い。
その代わり社会人百合には「スーパー銭湯」とかをおすすめめしたい。
社会人百合は、双方が社会人ゆえに、恋愛だけではなく、仕事上の悩み、将来への不安、結婚への圧力、加齢などが、並行して触れられていることが多いため、幻想が薄く、その分しょっぱみと生活臭が強いのである。
むしろそれが一切ないと「社会人百合とは言っているが、こいつら本当に働いているのか?」という疑問がわいて逆に萎えてしまう。
学生がマカロン百合なのに対し、社会人百合はなんこつから揚げ百合という感じであり、それこそが社会人百合の魅力のひとつなのかもしれない。
社会人百合の設定の強み
また社会人百合は「立場が大きく違うふたり」という設定を強調しやすい。
百合だけに限らず「性格も立場も全く違うふたり、何も起こらないはずがなく……」というのは、恋愛創作の鉄板である。
現実だったら、何も起こらないし「気まずい」としか思わないのだが、恋愛創作において「正反対のふたり」と書いて「運命」と読むのだ。
JK百合でも「優等生と不良」という性格上の違いはあるが、社会人百合ではさらに、社会的立場の差、そして「年齢差」の要素も入れることが出来る。
また社会人百合であれば「同棲もの」も良くある。
BLで「同棲」と聞くと「こいつはセックス祭ですぞ」という期待を隠し切れないが、百合の場合は必ずしもそうではなく、時にイチャイチャしつつも淡々と日常を送るという「エロくはないけど、こういうの良いし、逆にグッとくるよね」というものが多い。
このように、百合はBLや男女ものに比べ、エロに重きを置いていない印象がある。
社会人百合タグでもR-18がついているのは1割未満だ。
もちろん、エロい百合が好きという人もいるであろうから、そこは好みである。
このように、BLに比べたら人口が多いとは言えない百合であるが「何を百合とするか」はある意味BLよりも広い世界である。
女同士、大人同士だからこそ
「社会人百合」タグで投稿されている作品を見ると、オフィスラブものが多く、上司と部下、先輩後輩、同僚、など様々展開されている。
百合と聞くと、片方がみんな大好きセーラーウラヌス、または枢斬暗屯子様のように、男装の麗人、もしくはヒゲが生えている女がタチ役をやっているのを想像する人もいるかもしれないが、必ずしもそうではない。
片方が中性的というのもあるが、両方女性的というのも多く、どちらにしても、どっちかがただ男役の代わりをしているだけというわけではなく、女同士だからこその恋愛が描かれている。
また、社会人百合をいくつか読むと「酒」というのが創作において、いかに強力な武器かがわかる。
双方遠慮なく酒を飲める社会人同士だからこそ「酒の勢いで関係もってしまい、体から始まる恋……」という、俺たちが死ぬまで飽きずに読むであろう話をムリなく展開することが出来る。
それは現代未成年百合では難しいし、なによりそういう話は、社会人百合の方が映える。
セーラー服で戯れるのはJK百合でしか出来ないが、社会人百合だからこそできることも多い。
ちょっと塩気の効いた百合が読みたいと言う場合はただの百合ではなく「社会人百合」で検索してみるのも良いだろう


- カレー沢 薫
- 1982年生まれ。無職。著作は『クレムリン』(講談社)、『負ける技術』(講談社)、『ブスの本懐』(太田出版)など多数。趣味はエゴサーチ。
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