よかった、不幸な推しはいなかったんだと精神衛生を保てる「現パロ」/カレー沢薫のpixivタグ検隊

文/カレー沢薫
今回のpixivタグの検隊テーマは「現パロ」だ。
本題に入る前に説明するが、フィクションには、現代の闇をリアルにえぐり出したものから、転生したら何かだったりするものまで、数えきれないぐらいのジャンルが存在する。
それらをあえて、乱暴に3つに分けるとしたら「現代」「時代」「ファンタジー」そして「女が主で男のM気が強い主従もの」となる。
4つになったし、最後のは私がただ好きなだけなので、今回は除外する。
現代ものとは、舞台が現代、つまり今我々が暮らしている世界と大差ないものだ。
ジャンプ作品でいえば『ハイキュー!!』『スラムダンク』などがこれに当たる。
『テニスの王子様』をここに入れると「あれは枠に入れるものではないし、むしろ“テニスの王子様”という4つ目のジャンル」とクレームがつきそうなので、これははずしておく。
次に「時代もの」は、舞台が、戦国や幕末、古墳時代など、過去を舞台とした作品である。
もちろん漫画なので、大幅な誇張や史実の改変はあるが、一応「明治」や「戦国時代」など「実際過去にあった時代」が舞台なのがこれに当たる。
最後が「ファンタジー」だ。
これは、我々が住んでいる世界とは全く違う、いわゆる「異世界」が舞台のものである。
『ONE PIECE』などはこれに入るし『テニスの王子様』をどうしてもどこかに入れろと言われたら、この枠かもしれない。
作品によっては、現代や過去、異世界を行き来するものもある。
またテニスの王子様のように現代でも異能力バトルをしたり、逆に異世界なのに社蓄だったりと、現実とファンタジーが融合している作品も多々あるので、全てがはっきり分けられるわけではない。
だが、無理やり分けようとすればこの3つであり「現パロ」が行われるのは主に「時代」と「ファンタジー」だ。
「現パロ」とは「現代パロディ」の略である。
時代物やファンタジー作品のキャラクターが「もし現代人だったら」という設定で行う、二次創作の手法のことだ。
先日「ワンピースのキャラが高校生活を送る」という日清のCMがあったが、これはある意味「公式の現パロ」である。
新しいどころか、二次創作の中では親の顔より見た話だったので「二次創作かよ」という感想が相次いだ。
つまり「もしもゴールデンカムイや進撃に巨人のキャラたちが、2019年の現代社会に暮らしていたら」というのが「現パロ」である。
三八式歩兵銃や立体起動をつけたまま現代に来てしまうタイムスリップものではなく、あくまで「最初から現代人に生まれたら」という設定である。
ちなみに「現代に転生してきた」という話になると「転生パロディ」になるそうだ。
■精神を支えてくれる「現パロ」
現パロというのは割と好みの別れるジャンルである。
二次創作というのはどれも妄想なのだが、中には「原作に近い妄想がしたい」というストイックなタイプもいる。
そういうタイプからすると現パロというのは原作からの飛躍が激しすぎて、ついていけないらしい。
逆に現パロを好むのは「推しをいろんなシチュエーションに当てはめてみたいタイプ」が多い。
原作と同じ舞台でもいいが、違う舞台に立たせても別の輝きを放つはずだと、推しに無限の可能性を見出しているのである。
よって「現パロしか無理」という者は少数派で、現パロを嗜むものは大体「原作ベースの二次創作も好きだが、現パロもイケる口」なのである。
ちなみに私が現パロを嗜むのは主に「原作が辛すぎる」ときだ。
『ゴールデンカムイ』や『進撃の巨人』など、いつ推しが死んでもおかしくないし、実際死んだ人も多いだろう。
また、死なないまでも、原作がド鬱展開に突入してしまうこともある。
そんなとき、私の精神を支えてくれるのが「現パロ」だ。
原作では巨人に頭からイかれたキャラが、平和な現代で平和に暮らす姿を描くか、見るかして「よかった、不幸な推しはいなかったんだ」と、精神衛生を保つのである。
そのせいか「現パロ」は「ほのぼの日常系」が多い。殺伐とした原作のキャラが、現パロでも殺し合っている、というのはあまり見ない。
■現パロ好きには女性が多い?
ちなみに「現パロ」は「女性が男性キャラに対してやることが多い」という。
ジェンダーフリーが重要視される時代、安易に「女ってそういうとこあるよな」などと言ったら炎上は必至だ。
よって、とりあえず「刀剣乱舞 現パロ」「艦隊これくしょん 現パロ」で検索してみた。
その結果、刀剣乱舞は作品数「290,312件」に対し現パロタグが付いているのは「601件」。
艦隊これくしょんは「589,798件」に対し現パロは「15件」だった。
正確な比較でないことは百も承知だが、それにしても差が歴然としている。
「現パロは、比較的女性が好む文化である」と言わざるを得ない。
昔から「女は結果より過程を重視し、シチュエーションや関係性に萌える」というのでその影響だろうか。
しかし、男性向けセクシービデオ界隈にも、電車とか例のプールとか、教師と生徒とか友達のお母さんとか、様々なシチュエーションと関係性が存在する。
最初に謎のインタビューを入れたりと「過程」もないがしろにしているわけではない。
もしかしたら、男性はコスプレはさせても「もしも現代人だったら」など、まるごと設定を変えるような「ifの世界」までは考える趣味がないのかもしれない。
何故現パロは女性に人気なのか、まだ研究の余地は多い。


- カレー沢 薫
- 1982年生まれ。無職。著作は『クレムリン』(講談社)、『負ける技術』(講談社)、『ブスの本懐』(太田出版)など多数。趣味はエゴサーチ。