【新連載】感情が、感情が多い!「おぞましあわせつない」【カレー沢薫】

文/カレー沢 薫
この度から「カレー沢薫のpixivタグ検隊」という連載をはじめさせてもらう。
私も個人的にpixivには比喩ではなく毎日お世話に(性的な意味でも)なっている身である。
しかし、ここでいきなり、己の推しキャラやカップリングに対する熱い持論を展開してしまうと、天下分け目の大戦(おおいくさ)が始まってしまい、初回で「次回更新未定」になるので、そういう話は自分の個人アカウントやっていこうと思う。
このコラムで取り上げるのは、タイトル通り「タグ」だ。
「タグ」と言えば、我々を宝の山に導く道しるべとしてあまりにも有名だ。
己の推しカプのタグをクリックして1000件以上出たときは「サクセス」を感じずにいられないし、そうなると「じゃあとりあえずブクマ1000以上から見ちゃおうかな?」という「富豪閲覧」も可能だ。
逆に一桁未満だったりすると「おっと、キュウリ×大根のカプ名は『キュウダイ』じゃなくて『キュー大』だったかな?」とありとあらゆる「可能性」を模索し、当てのない旅にでなければならなくなる。
このように、希望にも導くが、絶望を目の当たりにもさせる、それが「タグ」だ。
このタグは日夜増え続けている。
作品やキャラが増えればタグが増えるのも当たり前だが、それだけではなく「幼馴染」「妹」「コメリの定員」のような属性を表すタグや、「おねショタ」や「S字結腸責め」など性癖やプレイ内容を示すもの、また「せつない」「バッドエンド」などの創作雰囲気や結末を表すもの、しまいには「続きを全裸待機」など、ただの読者の願望まで、その数は増殖し続けている。
そんな、タグの中で目新しいものに注目してみよう、というのが「pixivタグ検隊」だ。
■わがままハートにお勧め
第一回目のテーマは「おぞましあわせつない」だ。
感情が、感情が多い。
明かに情緒不安定の上「しあわせ」と「せつない」までは良いがそこに「おぞまし」が入ることで「これは穏やかじゃないぞ」という気にさせるてくれる。
まず「おぞましあわせつない」の意味をピクシブ百科事典で調べたところ
『おぞましい』『幸せ』『切ない』をまとめて表す場合に用いるキーワードと思われる。
ピクシブ百科事典
とのことだ。
ここまで何も説明していない項目も珍しいのではないだろうか。
だが重要なのはその下に書かれている「このタグの性質上、R-18、R-18Gの作品がヒットすることもあるので注意。」という文言だ。
これは平素文字より「♡」の数が多いIQマイナス二兆の18禁小説を読んでいる拙者には厳しいタグなのではないか。
しかし見てみないことには「おぞましあわせつない」についてはわかりそうもない、とりあえずこのタグでイラスト検索してみた。
まず、投稿作品は、二次創作よりオリジナル作品が圧倒的多数である。
また「悪魔」「魔女」「妖怪」など、人外のキャラクターが出てくる場合が多い。
この時点でキャラの造形が異形、または死や暴力の描写が含まれている場合が多いので、この点が「おぞまし」に当たると思われる。
そして、その異形の者が人間と交流し、友情や愛情を育む話が多い。
しかし種族の違いにより、直接描いてはいなくても、困難や最終的な別れを読者に想像させる点がとても「せつない」のだ。
だがこの「おぞましあわせつない」を見たら、鬱になって「今日はもう『推しカプ R18』で検索して“ひたすらいちゃいちゃしているだけです”と書いてあるものしか見れないよ」という気分になるかというと、そうではない。
なんとこのタグは「ハッピーエンド」が多いのだ。
「しあわせ」が入っているのは伊達ではない。
ただ、一般的な「しあわせ」とは違い、逃避行だったり、何かを犠牲にした上での「しあわせ」だったりするので、そこがまた「せつない」部分を加速させているともいえる。
どちらにしても、このタグがつけられているものは「後味が悪いバッドエンド」は少ないので「とにかくあまり嫌な思いをせずに胸を締め付けられたい」というわがままハートなときにお勧めである。
■手腕が必要ゆえに
このタグが使われている二次創作漫画やイラストは全くないのかというと、少数だがある。ざっと見たところ「ポケモン」「鬼太郎」「ドラゴンボール」などが散見された。
あまりにも、この玄人向けタグが似合わないジャンルなので、マジかよと思ったが、確かにこれらの作品には人外(見た目的にも)キャラが多数出てくるので、ある意味適正と言える。
しかしそれでも、最初「おぞましあわせつない」で小説検索してトップに「ポケモン」が出てきたときはたまげた。
この「おぞましあわせつない」のおもしろいところは、漫画だとオリジナルが多いが、小説だと二次創作が多くなるという点だ。文字書きの業の深さを感じる。
また冒頭にも言ったが「おぞましあわせつない」という、感情大クラッシュタグを使いこなすには手腕がいるため、総じて話しづくりが「上手い」ものが多い。
人の琴線に触れるものが描きてえ、と思っている人にとってこのタグは参考になると思う。
ただ、上手すぎて「こんなの思いつくわけがねえ」という自信喪失につながる場合もある。
私はそうなった。二度とこのタグは見ねえ、今日も「推しカプ R-18」で検索だ!