1日1枚描き続けた高校時代、表現を信じ続ける力の源とは。「望月けい × pixiv ONE」アフターインタビュー

インタビュー/虎硬
1時間でイラストを描く「ワンドロ(ワンアワー・ドローイング)」を、ピクシブでライブ配信する『pixiv ONE』。注目の第2回は、人気イラストレーターの米山舞さん・望月けいさんを迎え、2018年6月10日(日)に『pixiv MARKET』内の特設会場にて開催されました。
今回は、望月さんにアフターインタビューを実施! ドローイングの解説と、イラストレーターとしての目覚めから現在への歩みまで、たっぷりと掘り下げてお話を伺いました。記事の最後には、望月さんご本人と米山舞さんの動画解説もあるので、最後までじっくりとご覧くださいね。
描くのに2割、見ることに8割
── まずはpixiv ONE、お疲れ様でした。ライブ配信が終わった後の控え室ではかなりお疲れだったようですが、イベントは大変でしたか?

慣れない舞台で緊張していたのもあって、無事終えられて気が抜けたというのはあります(笑)。イベントの開始直前から「もしも間に合わなかったらどうしよう」とずっと不安でしたが、終わってみると楽しい経験になりました。
── ライブドローイング自体は以前もお仕事で経験されていると思うのですが、雰囲気はどう違いましたか?

単純に視聴人数の違いもあるのですが、今回はpixiv MARKETと同時開催で私の尊敬するような作家さんがたくさん来てました。その方々にも見られているという状況が緊張に繋がってたんじゃないかなと思います。他にもサポートしていただいたスタッフさん方もプロフェッショナルにお仕事されていたので、それに応えなきゃという気負いもありました。
── 事前のラフも何枚か拝見したのですが、一貫してレインコートの女の子でしたね。こだわりや意図があったのでしょうか?

私の中で、みんなコレを見たいんだろうなというのを自覚できる部分がいくつかあって、普段描いている中でその要素をすべて見せるには少し時間が掛かってしまうと思ったんです。それを1時間でなるべく詰め込んだものをどうしたら見せれるだろうと考えた時に行き着いたのがレインコートの女の子になりました。髪の毛が肩に乗っている部分だったりとか、手や顔が大きめに見えるところとか。あとは色のハッキリした部分とそうでないところの対比だったりというところも意識しています。


▲ イベント前のラフ、3パターン
── 見比べてみると同じ人が描いているとはいえ、ラフの再現度がとても高いですね。

そうですね。当日はペンタブの近くに参考として置いて、模写に近い感じで描き進めていきました。普段描き慣れている角度や構図というのもあって、自分らしさを維持しつつ良い感じに再現できたと思います。
── 普段の制作スタイルでは、資料などのモチーフを横に置いて描くということもされるんですか?

服のシワを描くのに少し苦手意識があるので、そういうときは資料を探した上で描くということは結構しますね。大学で絵を勉強していたときは、先生から「上手く描くためにはよく観察しなければいけない」とよく言われていたので、未だにその言葉を反芻しています。デッサンの授業のときに「描くのは2割でいいから、見ることに8割の頭を使いなさい」と言われたのをよく覚えています。
絵の道を目指したきっかけは、BUMP OF CHICKENのライブ
── 出身地と、学生時代のお話をお願いします。

大阪生まれ、大阪育ちですね。今年になって東京に住んでいます。小さい頃から塗り絵やお絵かきが好きで、美術系の賞を取ることもありました。父が絵画や音楽など芸術方面に見識の広い人だったんですよね。海の絵を描いていた時にも「波が立っているところは白くなるんだよ」と教えてくれました。
── 素敵ですね。

日常的に感性を育てる環境はあったのかなと思っています。それまではずっと落描きばかりといった感じだったのですが、高校1年生くらいからは自分でひとつの作品を仕上げようという意識が芽生えはじめました。
── 個人的には望月さんはどこか「今風」というか、音楽系と相性の良さそうなポップさとオシャレ感を兼ね備えている印象なので、 先程までのお話を聞いているとなんだか納得感があります。

私は3人兄弟の末っ子で、兄も姉も絵が上手で小さい頃は自分が一番下手だったので、ある種の劣等感みたいなものもあったのかもしれません。でも、今の私がこうして絵の仕事を続けられているのはとても嬉しいですね。
── 時々お仕事を秘密にされている方もいるのですが、望月さんはご家族の方には絵の仕事をしているというのはお話されているのですね?

話しています!私が絵の仕事をしているというのは両親も兄弟もとても喜んでくれていますね。今回のイベントの事も知らせたのですが、母が喜んでくれたのが嬉しかったですね。
── 絵の道に進もうと思った、なにかきっかけなどはあったのでしょうか。

音楽の話になるのですがロックバンドのBUMP OF CHICKENからの影響は大きいかもしれません。人生初めて行ったライブもBUMPだったのですが、本当に素晴らしかったです。こんなにも人を感動させるものが作れるのは凄いなと。
── 僕は望月さんよりもだいぶ年上ですが、それでも学生の時に聴いたBUMPの曲には勇気づけられましたね。世代を超えてそういう存在になっているのは本当にすごいです。

人生に影響を与えられるモノを生み出せる人は、憧れる存在ですね。
── 学校は(美術科ではなく)普通科だったのですか?

高校は普通科ですね。大学は美大の漫画をメインで専攻する学科でした。
── その頃からイラストを仕事にしたいという意識が強かったのでしょうか。

いえ、当初は漠然と絵に携わるような仕事をしたいとは思っていたのですが、今みたいなフリーのイラストレーターとして活動していくということは全く考えていませんでした。あまり将来のことを考えていなかったので、高校を卒業する時期が近くなってきてから進学や就職が面倒になってしまって、とりあえず美大に入っちゃおうと決めました。(大学の)卒業が近づいた時もゲーム会社への就職を考えたのですが、絵の仕事をもらっていたので、なりゆきでフリーのイラストレーターに落ち着きました。基本的に面倒なことに努力するのってあまり気乗りしないんですよね(笑)。
── 最近上京されたとのことですが、何か心境の変化などがあったのでしょうか?

上京するかは以前から悩んでいました。私が末っ子なもので実家を出るのは中々タイミング的に難しいものあり、「どうしてもやりたい仕事は東京に出てきた方がやりやすい」というのもあり……。そこで友達にすすめられて、生まれて初めて占い屋さんに行ったんですよ(笑)。占いというより、客観的に話を聞いてもらって普通にアドバイスしてもらっただけなんですが、それが最終的には背中を押してくれましたね。
── 占いでの後押しとは面白いですね。まだ日は浅いと思いますが、東京はどうですか?

とても自分に合っている街だなと思います。元々人と接するのが苦手で、東京の良い意味での無関心さというか距離感が好きです。
高校3年間は、毎日1枚描く
── イラストはいつ頃から本格的に描きはじめましたか?

中学3年生頃に、漫画の貸し借りが流行ったのもあって初めて好きなキャラのファンアートを描きました。それまでは顔の一部分だったり、手の部分を描いてみたりというのを漠然とやっていたので、完成された1枚の絵を描くのって楽しいなと思うようになりましたね。
── 「仕上げる」「完成させる」って実はハードル高いですよね。

高校1年生から高校3年生までの3年間は毎日1枚仕上げる勢いで大量に描いていて、学校から帰ってきたらそれ以外何もしないレベルで熱中していました。中学生の頃はテニス部に入っていたので練習の疲れだったり友達との付き合いが多かったのもあってそれほど描いていなかったのですが、高校生になって自分の中での絵の存在が大きくなった覚えがあります。ほとんど寝ずに描き通して、学校の授業中に寝るみたいな(笑)。
── やっぱり上達する方は凄まじい枚数を描いているのですね……!デジタルに移行したのもその頃ですか?

そうですね。それまではアナログでした。コピックで着彩したイラストを携帯サイトで公開していたのを覚えています。デジタルを導入してからは次第にネットの環境も整ってきたのでpixivやTwitterの活動が主になっていきました。
漫画をきっかけに液タブへ
── 現在はCLIP STUDIO PAINTですよね。ツールの変遷などを教えて頂けますか?

最初はペンタブに付いてきた『Painter Essential』を使っていました。Gペンのブラシツールだけをずっと使っていて思ったより扱いやすかったのを覚えています。それから半年くらいしてからはSAIに、大学生になってからはCLIP STUDIOに移行しました。
── CLIP STUDIO PAINTに変えたきっかけは何かあったんでしょうか?

SAIにはCMYK変換がついていないのもあって、印刷用データを作る時は困ったんですよね。はじめの頃は友達に頼むこともあったのですが、仕事を受け始めていたのをきかっけに導入しました。
── ペンタブは何を使われてましたか?

最初に親からもらったbambooは5年間ずっと使ってました。Windows搭載の液タブ、Cintiq Companion2が出てきた頃に漫画を描いていたのもあって、使い勝手の評判を聞いて買い替えました。液タブ移行は慣れるまでは多少苦労しましたが、細かい部分を描き込めるようになったので良かったのかなと思っています。
影響を受けたクリエイター
── 影響を受けたクリエイターさんがあれば教えてください。

何人もいるのですが、中学生の時にハマった漫画の『いでじゅう!』を描いてらっしゃるモリタイシ先生からは、未だに女の子の体のバランスなどに影響を受けています。
── モリタイシ先生は非常に人物が上手いですよね。

昔は絵の上手い下手というのがよく分かっていなかったのですが、モリタイシ先生の漫画を読んだ時に「絵が上手いっていうことなんだな!」と衝撃を受けました。何回も何回も繰り返し読んでましたね。
── 確かに、言われてみると服のシルエットの取り方や手が少し大きい表現などは近い感じがします!他に影響を受けた方がいたら伺いたいです。

その後にはアニメを沢山見るようになって、錦織敦史監督の『THE IDOLM@STER』を見ました。「体の描き方はアイマスから学んだ」といっていいくらい影響を受けていますね。アニメ特有の最小限の線で女の子の肉感を表現していることに感動しました。錦織さんの画集を買ってたくさん真似をもしましたね。同じ頃にpixivを頻繁に利用する事が多くなって、三輪士郎さんの絵に出会いました。パっと見の格好良さにすべてを賭けるというか、アナログのタッチを残しているようなところにも影響を受けていて、当時はアイドルマスターと三輪士郎さんの絵を交互に頭のなかに入れるような日々が続きました。
── 錦織さんももちろんですが、三輪士郎さんもベテランにも関わらず未だに最先端といった感じで、いい意味で落ち着かない、素晴らしいクリエイターですね。

『恋は戦争』でキャラクターの目が隠れているのに、それでも画になってちゃんと格好いいっていうのは驚きました。目は人物の印象を決定づける部分なのでそこをあえて描かないのはかなり勇気がいるなと。
── セオリーを敢えて外しているのに、それでも王道の格好良さがありますね。

最近、私が描く顔のバランスは、ONEでもご一緒した米山舞さんの『レーシングミク2016』から来ているように思ってます。すべて完璧で絵に求められるものを高いレベルで昇華している感じで。一時期、影響をうけたら似過ぎちゃってヤバいなって思ったこともありました(笑)。
── 今回のイベントでもそうでしたが、絵に対して隙がなく、安定した完成度がありますよね。

ファン目線でみていても絵の安定感というか、もっといえば信頼感があると思えるくらい、私の中でもかなり次元の違う方です。今回pixiv ONEを通じてお隣で描ける機会があって、控え室に一緒に入った時にも「よく(この仕事を)受けたな、私!」って改めて思いました。でも、一緒にできて本当に嬉しかったです。遠慮しなくて良かったなと(笑)。
── 米山さんも相手が望月さんと聞いて、良い意味で緊張感を持っていたみたいですね。

一緒に描いてて、あらためてすごい方だなあと感じました。
── これまでのお話を聞いてきましたが、最近、特に注目しているクリエイターさんはいらっしゃいますか?

沢山いるのですが、特に注目といえばLAMさんですね。ご本人とも面識があり、2017年の夏頃から仲良くさせてもらっています。お互いに作風をリスペクトしていて、理解者とも思ってます。一方で「負けたくない!」っていう気持ちも強いんですよね。
── 仲良いからこそ?

私は、生まれてからずっと自分の絵が1番良いと思って生きてきた人間なんですよね。今までは尊敬できるようなイラストを見ても、1番「良い絵」は自分の絵という自負があったんです。それがLAMさんのイラストを初めて見たときに若干揺らいだような気がして、負けちゃうかもしれないなと思ったんですよね。もちろん表現の世界なので勝ち負けではないのですが、危機感がありましたね。
── 目線というか、見ている方向が近いのかもしれませね。それがスタイルに反映される。

そうかもしれません。それでも、私の絵もいいぞ! と再確認していきたい(笑)。
念願のフィギュア化
── 今までやった中で印象に残ったお仕事はなんでしょう。

転機になったお仕事が2つあって、ひとつはニコニコ動画でも活躍されているミュージシャン・れをるさんの『極彩色』というアルバムのジャケットです。PVやブックレットのイラストも担当しました。当時は4人で制作をしていたのですが、楽しく描かせて貰えた上に反響も大きかったので代表作のようになりました。今の私はこの時のお仕事、環境がなかったらあり得ないですね。作っているときは文化祭の前日がずっと続くような、わくわくする楽しさがありました。
── PVのクオリティも凄い。小物も描かれたんですか?

基本的にはキャラクターだけで、小物は少し描いたのですが、映像担当のお菊さんの力が大きいです。とても頑張ってくれて、仕上がりをみてびっくりしました。ただひたすらに凄いなと。
── みんなで一つのものを作る経験は楽しいですね。

もう1つは、SEGAのアーケードゲーム『CHUNITHM AIR』で描かせていただいた「七海あおい」というキャラクターです。はじめてコンシューマー系有名企業から頂いたお仕事で、背景もしっかり描き、自分としてはステップアップできるいい経験だったなと思います。お仕事のやり取りの途中でも「こういうイメージがあるから、こういった色遣いにして欲しい」などのオーダーがあって、印象の大切さについて学べる良い機会でした。このお仕事からは、普段の自分のテイストを仕事絵でも上手く取り入れつつ描くことができるようになりました。
── 『CHUNITHM』は尖っているクリエイターさんが多いですよね。望月さんを起用したのはは晴らしいな、と個人的にも感じてました。

こちらの反響もとても大きくて、今でもこの絵が好きっていう風に言ってくれる方がいるので、お仕事させてもらった身としてはありがたいし、嬉しいです。
── 最後の質問になりますが、これからお仕事をされていく中でやってみたいことなどありましたらお教えください。

色んなことに広く挑戦したいと思っています。漫画もどんどんと出していきたいし、イラストのお仕事も引き続きやっていきたいです。特にやってみたいことといえば、アニメのお仕事をやれたらなと思っていますね。あとこれは最近公開されたのですが、以前からずっと関わりたかったフィギュアのデザインをやらせて頂くことができました!この夏のワンダーフェスティバル『ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト』FILE:06のイラスト担当してます!
── ワンフェスのフィギュアは歴代のクリエイターさんが全員素晴らしく、望月さんの絵も最高でした……!

感無量というか、念願叶ったという感じです。
── 今後ともご活躍が楽しみですね。あらためましてpixiv ONEお疲れ様でした!
望月けいさんのドローイングを、望月さんご本人と米山舞さんが解説!
ライブドローイングイベント「pixiv ONE」で描かれた望月けいさんのイラストを、望月さんご本人と米山舞さんが動画で解説してくれました。 1時間という限られた時間の中、どんなポイントに留意して描いていたのか、気になるテクニックがたくさん見つかるかもしれません!
※ 望月さんの声には音声加工をしています。