闇からふっと下りてきた!『うらみちお兄さん』久世岳先生が明かす制作秘話

取材・文/近藤世菜 編集/佐久間仁美
「諦めても終わらせてはもらえない試合だってあるんだよ……。『人生』とかね……」
思わずうつむいてしまうこんなセリフをつぶやき続けるのは、なんと教育番組の体操のお兄さん。

疲れて落ち込んでいたとき、うらみちお兄さんが闇からふっと下りてきた
── まず『うらみちお兄さん』が生まれたきっかけを教えてください!

仕事でストレスを感じるできごとが続いた時期があって、思い切って休憩しようと、ただぼんやり1週間を過ごしました。すると本当に突然、ふっと「うらみちお兄さん」が下りてきたんです。
── それは、キャラクターのアイデアが、ということですか?

いや、完全体で下りてきました。見た目も、体操のお兄さんという設定も、表裏のある性格も。そのとき、絶対におもしろいものが描けると確信したんです。
── 久世先生の抱えていたネガティブな感情が、うまく昇華したのが「うらみちお兄さん」なんですね。

はい。随所に私の心の内を代弁させています。だからストレスが溜まっているときほどネタ出しがはかどるんです(笑)。

── ちょっと突っ込んだ質問になっちゃうんですが……。ということは、久世先生にもうらみちお兄さんのように裏表があるということですか?

読者の方に対する裏表はまったくありません。というより、うらみちお兄さんも私も、性格的な面で裏表があるというわけではなく、漫画を提供して楽しんでいただくという夢のある大好きな仕事をしていても、どうしても楽しいことだけではなく、いろいろなことがあるもので。うらみちお兄さんもエンターテイメントの世界で働いている人だから、多分近いところはありますね。
また、少しずつニュアンスは違えど、これはどんな職種であれ現代社会を生きるすべての人に共通することなんじゃないかなと思います。どんな人でも仕事で見せている顔と、本当の自分はちょっと違う。そういうところに共感してもらえたらうれしいです。
生々しいけどクスッと笑える、絶妙なさじ加減が作品の魅力
── 『うらみちお兄さん』にはうらみちお兄さんのほかにも、うたのお姉さんやいけてるお兄さんなど、魅力的なキャラクターがたくさん登場していますよね。

もともと創作はキャラクターから生み出すタイプなので、うらみちお兄さんがふっと下りてきたように、ほかのキャラクターも自然に生まれてきました。
── 難しいと思うんですが、久世先生がとくにお気に入りのキャラを決めるとしたら誰ですか?

自分の思考を代弁させているから当たり前かもしれませんが、うらみちお兄さんですね。顔立ちだけでいうと兎原(ウサオくんの中の人)がさりげなくお気に入りです。
ちなみに、担当の編集さんはうたのお姉さん推し。リアルで生々しい疲れ方をしているのがいいらしいです(笑)。
── たしかに結婚情報誌のくだりとかかなりリアルですよね(笑)。それなのに、暗い雰囲気にならないのがすごいです。

読者の方を嫌な気持ちにさせないギリギリのところを狙っています。どんなに生々しいネタでも、ちゃんとギャグに昇華させるように意識して描いていますね。

── それから、いつもセリフのパンチがすごいなと思いながら読んでいるんですが、どんなところからインスピレーションを受けているんですか?

闇の深いセリフを考えようって思っているわけではなく、普段から思ったことをスマホにメモしておいて、それを漫画のネタにしているんです。
パンチを効かせようとしているつもりではないのですが、「伝えよう」という意識だけは切実に強烈なので、結果的にそう感じていただけることにつながるのかもしれません。
うらみちのお兄さんの声を演じるのは、なんとあの神谷浩史さん!
── 単行本の発売を記念して『うらみちお兄さん』のPVが制作されることになりましたが、なんとうらみちお兄さん役は神谷浩史さんが務めているんですよね!

そうなんです! 神谷さんに決まったときはただひたすらうれしかったですね。読者の方の間でも「うらみちお兄さんの声は神谷さん!」という声が多かったんですよ。
── アフレコ現場に同席されたそうですが、いかがでしたか?

現場では「遠慮せず何でも言ってくださいね」と言われていたのですが、一発目からもう言うことなしで。イメージどおりのうらみちお兄さんを演じていただけました。
── PV用の台本は久世先生が書き下ろしたんですよね?

そうなんです。原作で好評だったセリフを入れつつ、神谷さんだからこそ言ってもらいたいセリフも新たに加えました。神谷さんの素晴らしさを存分に引き出せるように書いた台本です。それと、まだ『うらみちお兄さん』を知らない方にも作品の魅力が伝わるように意識しました。
神谷さんがうらみちお兄さんを演じるPV動画はこちら!
── 最後に単行本発売に向けてメッセージをお願いします!

『うらみちお兄さん』はTwitterからはじまって、pixiv、comic POOLでの連載、そして今回の「WEBマンガ総選挙」と、読者のみなさんに育ててもらった作品です。これからももっとたくさんの人に好きになってもらえるよう、深く掘り下げたネタを描いていきたいと思います!
── ありがとうございました!
大人なら誰でも持っている、裏の顔のひとつやふたつ
闇の中からふっと生まれたうらみちお兄さん。久世先生自身の負の感情をうまく昇華させているからこそ、多くの読者から共感を集めているのでしょう。グサッとくるのに、クスッと笑える『うらみちお兄さん』。不思議なことに、読むと「明日も無理せず頑張ろう」と元気をもらえる作品です。