今年で日本のアニメは100周年!? ベテランアニメプロデューサーが語る歴史と未来

文/ いしじまえいわ 編集/長谷憲
現代を生きる日本人にとって欠かすことのできないエンターテインメントジャンル「アニメ」。そのアニメにはどのくらいの歴史があるか、ご存知ですか?
一般社団法人日本動画協会によると、日本のアニメは2017年で100周年とのこと。そこでアニメ100年の過去と現在、そして未来について、レジェンド級のアニメプロデューサーである植田益朗さんにお話を聞きました。

- 植田益朗 アニメプロデューサー
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株式会社サンライズ役員、フリーランスアニメプロデューサーを経て、2003年に株式会社アニプレックスの立ち上げに参画。同社及び A-1 Picturesの社長、会長を歴任した。現在はソニー・ピクチャーズエンタテインメントのアドバイザーを務める。
2017年からネットラジオ番組『植田益朗のアニメ! マスマスホガラカ』(文化放送)をスタート。アニメ業界発展のために業界関係者・声優とのトークを配信している。
担当代表作:『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙篇』、『銀河漂流バイファム』、『シティーハンター』、『機動武闘伝Gガンダム』等平成ガンダム作品、『カウボーイビバップ』、『黒執事』『ソードアート・オンライン』等。
日本のアニメの歴史はミッキー以上!? 実はものすごく長いアニメの歴史
──日本のアニメの歴史が100年もあるというのは本当ですか?

植田益朗さん:本当です。下川凹天(しもかわおうてん/へこてん)さんという漫画家の方が、1917年に日本初の国産アニメーション作品を公開されたと言われています。正確な発表時期の情報やフィルムそのものは残っていないため、いつ発表されたのか、どんな作品だったのかについては今も研究が進められています。
また、幸内純一(こううちじゅんいち)さんという漫画家の方の『塙凹内名刀之巻』(はなわへこないめいとうのまき)、別名『なまくら刀』という作品については、1917年6月30日に公開されたという記録が残っており、フィルムも現存しています。いずれにせよこの年、1917年に日本の国産アニメが誕生したと考えられています。


この頃、複数の日本人クリエイターが、日本初のアニメ映画公開を目指して先を争っていたそうです。新しい表現に挑戦しようという心意気が、日本のアニメの歴史をスタートさせたんですね。
──1917年というと、大正時代ですか!『鉄腕アトム』(1963年放送)が最初のアニメ、と考えている人も多いと思います。

それはテレビアニメがスタートした年ですね。1917年から『鉄腕アトム』が始まる1963年までの約46年の間も、劇場アニメという形で日本人はアニメを作ったり見たりしていたんですよ。高畑勲監督や宮崎駿監督、手塚治虫先生も『鉄腕アトム』以前から素晴らしいアニメ映画を作られています。
──ミッキーマウスの第1作(『蒸気船ウィリー』)が1928年公開なので、日本のアニメの歴史はミッキーマウスよりは長いんですね。

ただ、多くの人が日本のアニメ特有だと感じる特徴、例えばテレビ放送は30分番組であること、オープニングとエンディングに主題歌があること、海外のアニメーション作品とは違った、日本のアニメ独特の動きや表現であることなど、多くが『鉄腕アトム』から生まれています。だから『鉄腕アトム』を一つの区切りとして考えるのも、あながち間違いでもありません。
昔は映像の収録機材が高価だったため、ニュースや歌番組だけでなく、テレビドラマでさえ生放送が主流でした。事前に絵を描いておく必要があるため生放送ができず、放送の準備に莫大な時間とコストがかかるアニメを30分枠で毎週放送するのは、当時は非常に難しいと思われていました。それを日本で初めて実現し、今のアニメのスタンダードを築いた『鉄腕アトム』は、やはり記念碑的な作品と言っていいと思います。
──今では普通になったアニメのTV放送も、当時はチャレンジだったんですね。

その後も、1980年代のビデオデッキの一般家庭への普及を受けて、テレビ放送や劇場上映を介さずビデオだけで販売するOVA(オリジナルビデオアニメーション)という形の作品が現れたり、インターネットの普及でWebアニメが生まれたりしました。様々なメディアに挑戦することで発展してきたのが日本のアニメの歴史です。そういったチャレンジ精神はこれからも失わずにいたいですね。
ここがスゴイ! アニメの現在
──植田さんから見て、アニメの現在について「ここがすごい」というところはありますか?

やはりインターネットの普及によって世界中のアニメファンがほぼ同時に新作アニメを楽しめるようになったことですね。
ほんの十数年前まで、日本国内でも全国ネット放送でない作品は地方によって放送したりしなかったりだったので、リアルタイムで同時に楽しむことはできませんでした。
現在では多くの作品が公式でネット配信されたり世界各地で上映されたりしますので、国内はもちろん世界中のどこへ行っても日本と同じ新作アニメを楽しんでいるアニメファンに出会うことができます。
先日アメリカのノースカロライナ州で開催されている日本イベント「アニメいずめんと」に参加してきましたが、日本で人気な作品はあちらでもやはり人気なようでした。言語や国の壁を越えて、アニメを見ていることが共通言語になる時代がもう目の前に来ています。

出典:植田益朗のアニメ!マスマスホガラカ 『アニメいずめんと』特別編
アニメの歴史が終わる!? 100年後のアニメのためにできること
──なんとなく新しめのジャンルという印象のあったアニメですが、長い歴史があり、世界中で愛されているということがよく分かりました。

そうですね。一方、実は厳しい側面もあります。アニメ100年を迎えた現在、制作本数の増加や労働環境など、業界としては様々な問題を抱えています。どの問題も根が深く簡単に解決できるようなものではないので、多くの関係者が頭を悩ませています。アニメバブルが弾けて日本のアニメ業界が衰退し、いずれ海外の作品に淘汰されてしまうのでは、という人もいるくらいです。
──そんなに深刻な状態なんですか。何か打開策はないのでしょうか。

先述の通り、アニメ業界の抱える問題は非常に複雑なので、すぐに解決できるような特効薬はありません。ですが、遠回りであればできることはあります。それは、みなさんにアニメについてよく知ってもらうことです。
──どうしてそれがアニメ業界の問題解決につながるのですか?

たとえばアニメ業界の労働環境について議論をするとき、どんな人たちがどんな仕事をしているのかを知っていることは不可欠ですよね? 当たり前のことですが、まずはアニメやアニメ業界について正しく知っている人が増えなければ、実りのある議論も改善も始まらないのです。
幸いなことに、今年はアニメ100周年ということで、それにちなんだイベントやセミナーが数多く開催されていますし、NHKなどでも『ニッポンアニメ100』などの特番が組まれています。これからもそういったイベントや番組は数多くスタートすると思います。
この記事をご覧の皆様にお願いしたいのは、ぜひそういったイベントに足を運んだり番組を見たりしてほしい、ということです。
そして、アニメ100周年をきっかけに「自分にとってアニメとは?」と考え、調べ、何か思いついたらぜひアクションしてほしい。業界の抱える問題も、業界関係者だけでなくファンも含めた一人一人の思いがなければ、解決できないものだと思います。
今の業界の問題を乗り越え、100年後の人たちも私たちと同じようにアニメを楽しめるようにしたいですね。
──貴重なお話、ありがとうございました。
アニメが100年も前から楽しまれていた歴史あるジャンルだったこと、現在日本だけでなく世界中の人たちに楽しまれていること、そのアニメが今危機に瀕していることが分かる取材でした。
いつかアニメがこの世からなくなってしまうのはあまりに残念。私たちを楽しませてくれてきたアニメに対して、逆に私たちができることを考えていきたいですね。
>>「日本アニメーション映画クラシックス」ウェブサイト
東京国立近代美術館フィルムセンターが、日本でアニメーション映画が誕生したとされる1917年から100年目に当たる2017年を記念して試験的に開設し、2017年末までを目途に公開されます。
現存する最も初期のアニメーション映画『なまくら刀』(1917年公開)をはじめ、戦前に製作・上映された64作品を鑑賞できます。また、「大藤信郎記念館」では約140点に及ぶ資料を閲覧できます。