ヒロイン専属アニメーターがいる!?『エロマンガ先生』竹下良平監督&小林恵祐アニメーターインタビュー

取材・文/三浦一紀 編集/佐久間仁美
2017年春アニメの中で、もっとも注目されていると言っても過言ではない作品が『エロマンガ先生』です。ライトノベルの原作は伏見つかささん、イラストはかんざきひろさん。2013年4月から6月まで放送されていたアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』のコンビによる作品です。
この『エロマンガ先生』で特に注目されているのが、中学1年生のヒロイン・和泉紗霧ちゃんのかわいらしさです。かんざきひろさんが描く紗霧ちゃんがかわいいのはもちろんですが、アニメでの紗霧ちゃんのかわいらしさは特筆もの。
その秘密は、実はアニメでは紗霧ちゃんのカットをメインに担当する「紗霧専属アニメーター」がいるから、との噂をキャッチ。そこで、『エロマンガ先生』の竹下良平監督と、紗霧専属アニメーターである小林恵祐さんに、本作についてお話を伺いました。ちなみに、このおふたりは、現場での先輩後輩の仲(竹下監督が1年先輩)。そのため、ふたりの間の信頼関係も強いものがあるようです。
「普段見えないような場所」を見せるのが、かわいさにつながる
──本日はよろしくお願いします。まず、竹下監督はどういった経緯で『エロマンガ先生』の監督を務めることになったのでしょうか。

昔からアニメが好きで、大学卒業後にアニメ制作の仕事に入りまし
た。今年で12年目になります。動画担当から演出、副監督などを経験して「監督をやりたいので、何かありませんか?」と言っていたら、今回のお話に繋がりました。

▲ 竹下良平監督: 一橋大学卒業後、株式会社ジーベックにアニメーターとして入社。その後フリーランスに。『月刊少女野崎くん』でチーフ演出、『NEW GAME!』で副監督を経て、『エロマンガ先生』で初監督を務める。
──その初監督作品の『エロマンガ先生』ですが、監督が意識しているところはどこでしょうか。

やはり、ヒロインである紗霧をかわいく描くのは、絶対必要だと思っていました。原作でも、そこをすごく重視していると感じましたので。自分が監督をするにあたって、紗霧をいちばんかわいく表現して、それ以外の女の子たちも魅力的に、それぞれの個性を出せたらいいなと思っています。
──小説のイラストでも紗霧ちゃんは充分かわいいのですが、アニメーションでかわいさを表現するポイントというのはどのあたりでしょうか。

俯瞰めで上目遣いにするとか、体のパーツを見せることですね。指やおへそ、足の裏といった、普段見えないような場所を見せると、ちょっとドキッとしますよね。
あと、このキャラクターがこの仕草をするからかわいいというのもあると思います。7話で紗霧が布団の中にくるまっているのですが、ああいうのはかわいいなと思いますね。


▲ 布団の中にくるまっている紗霧ちゃん
──監督がコンテを書いている場合もあると思いますが、具体的にはどんな指示を出されるのでしょうか。

「このカットではここを見せたい」とお願いしています。1話でいうと、「おでこが出ているカットでは、おでことおへそが大事なポイント」というような感じです。
紗霧カットは、アニメとリアルのギリギリを攻めている
──『エロマンガ先生』では、紗霧ちゃんをメインに描く「紗霧アニメーター」がいるという体制が話題になっています。そのアニメーターが小林さんということですか?

▲ 小林恵祐アニメーター:株式会社ジーベックにアニメーターとして入社後フリーランスに。『WORKING!!!』、『Wake Up,Girls!』、『Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-』などに原画、作画監督として参加

はい。実際には、紗霧だけを描いているわけではないんですが。

紗霧をメインに描いてもらっていますが、フェチ心をくすぐるポイントはここ! というところを描いてもらっています。いわゆる「紗霧カット」と呼ばれているところですね。
──なるほど。専属アニメーターではなく、グッとくるカットが紗霧ちゃんに多いので「紗霧カット」と呼ばれており、その描写を小林さんが担当しているということだったんですね。でも、視聴者のみなさんには「ここが『紗霧カット』ですよ」ということが提示されているわけではありません。注意深く見ているとわかるものなのでしょうか。

力が入っているのはわかると思います。

全体の印象として「今週も紗霧かわいかったな」と思っていただければ、成功かなと思っています。
──紗霧カットの特徴というのは、どんなところにあるのでしょうか。

「生々しい絵がほしい」と監督から要望がありましたね。それで、ちょっとした部位のアップとかをリアルに描写しています。リアルを意識して動かすのは、個人的に好きなので、監督が僕に頼んでくれたのだと思います。

▲ 紗霧ちゃんがパジャマを脱いでいるシーン。前開きのパジャマを頭から脱ぐのが萌えポイント。

アニメ的な動きの中で、一瞬でもリアルな動きが入ると目立ちますよね。小林くんの作画はリアリズムがあるんですが、いわゆるリアルな絵ということではなくて、アニメとリアルのギリギリのところを攻めていると僕は思っていて。

ありがとうございます(笑)。

今回のこのアニメに、彼の力が加わることで作品にとってプラスになるのではと思って、ここだ! というカットは彼に頼んでいます(笑)。この作品にメインとして参加することを最初はなかなかうんと言ってくれなくて、何回もお願いしましたね。

通常のアニメでは、コンテをいただいて自分で選んでシーンを撮っていくんです。でも『エロマンガ先生』は、監督から指示があるカットを描く形になっていますので、毎話どんなシーンが来るのか、ちょっとドキドキしますね(笑)。
こだわった、紐パンのシーン

今までで一番むずかしいなと思ったのはどこ? 紐パンのところかな?

▲ 紗霧アニメーターの小林さんが難しかったと語った、紐パンを結ぶシーン

これは大変でしたね(笑)。アニメで紐を結ぶというのはとても難しいんですよ。この動作って、たいてい無意識に行うじゃないですか。それを1つずつ分解して理解していかないといけないので、すごく難しいんですよ。
普通のアニメだったら、最後に紐をキュッと締めるだけのカットになるんです。それを、緩んでいる紐を結び直す動作を全部描くという。

小林くんは難易度の高いシーンも、すごくリアルにやってくれています。
──そのシーンは重要だったわけですよね。

重要でした。紐パンがほどけているところから、紐パンの紐を結ぶということがすごく大事だなと思って(笑)。
──たしかに、このシーンは危うく大事な所が見えてしまうのではないかと、すごくドキドキしました。

いざ描いてみたら、監督から随分攻めたねみたいなことを言われて(笑)。

カットが上がってきたとき、こんな風になるんだ、こんな破壊力があるんだってちょっとドキッとしました(笑)。
──このシーンは、監督からはどういう指示が出ていたんですか?

紐を緩いところから結んで、キューッと結ぶところまでみたいな感じです。あとはコンテに構図が描いてあるくらいですね。基本的に信頼してくれているので、自由にやってくさだいとは言われています。
紗霧カットは「ループする」というところもポイント
──紗霧カットの中で、特に見てほしいカットなどはありますか?

僕は、1話で紗霧が自分のお尻を撮影しているカットですかね。あれは原作にはないシーンなんですけど、インターネットなどで話題になっていて。自分たちが考えたことが、たくさんの人に響いて、気に入ってもらえたのはとても嬉しいです。

▲ 1話で紗霧ちゃんが自分のお尻を撮影してイラストの参考にするカットは「紗霧カット」。竹下監督がアニメのために入れたシーン

僕は、2話で紗霧が駄々をこねているカットですね。

あのループしているところ? 出ない出ない出ない出ないったら出ない! っていう。

▲ 小林さんが気に入っているという2話のカット。紗霧ちゃんが部屋を出たくないと駄々をこねる。「出ない」という言葉と動作を繰り返すことでより印象深くなっている

そうです。あれはおもしろくできたんじゃないかなと思っていて。

僕的には、紗霧カットは「ループする」というのもポイントにしています。同じ動作を繰り返させることによって、見ている人の印象に残ると思うんですよね。
アニメーターも、エロマンガ先生のように女性の身体を見て描写している?
──竹下監督や小林さんは、エロマンガ先生のように、女性の身体を描くときは実際に観察して描いたりするんですか?

観察できるならしてみたいですね(笑)。

うまいアニメーターって、ちゃんと実物なり写真を観察していると思いますね。少なくとも、鏡の前でキャラクターと同じポーズをして、確認することはよくあると思います。

その他の参考資料として、アイドルのイメージビデオとかもよく見るようになりましたね。やっぱり男の身体を見てもイメージできないですから(笑)。自分の中の引き出しを増やすためにも見ていますし、単純に楽しいです(笑)。
──普段の生活ではあまり見かけないシーンやカットの場合はどうしているんですか?

アニメ制作はクリエイティブな仕事なので、自分の中にある経験から出してきてますね。その時その時に実物が見れなかったとしても、自分の実体験の中から探ってきて、描写している気がします。
見ている人がハマるオープニング・エンディングを作りたかった
──オープニングの紗霧ちゃんのダンスがとてもかわいいんですが、あれはどういう経緯で決まったんですか?

▲ オープニングでは、紗霧ちゃんがエロマンガ先生モードで踊っている。とてもかわいい

紗霧は、動画配信のときにノリノリになるという特徴があるので、あのオープニングは動画配信中のダンスという設定です。アニメのオープニングでダンスをするのは、結構定番なんですよ。ベタなんですけど、やりたかったことですね。
── 一方エンディングでは、紗霧ちゃんが部屋の外に出てダンスをしています。引きこもり設定の紗霧ちゃんを部屋の外に出したのは、どんな意図があるんですか?

▲ エンディングでは、紗霧ちゃんが部屋を出て洗濯機の前で踊っている。こちらもかわいい

もともと自分の中で、エンディングは、紗霧が正宗と一緒に世界旅行をする、正宗が紗霧にたくさんの外の世界を見せてあげる、というコンセプトがあったんです。しかし、ちょっと作業的に厳しいということで、考えたのがあのエンディングです。
2話のラストで紗霧が「自分で自分のパンツはこれから洗う」という風に言って終わるので、そこからつながっていけばおもしろいかなと思って。

エンディングは2話からつきますしね。

キャラがかわいいだけじゃない。正宗と紗霧で1冊のラノベを作り上げる、物語の本質を描く。
──SNSの反応を見ていると、原作以上に紗霧ちゃんがかわいいという声が多く見受けられますね。どうしたらそうなるんでしょうか。

表情がコロコロ変わる点ですかね。目がパチパチするだけでもかわいいですし。あとは色ですね。紗霧は全体的に儚いですよね、色が。あの淡い色使いと、偉そうな言葉遣いや上から目線のギャップがポイントだろうなとは思っています。
──小林 智恵(正宗の同級生、たかさご書店の看板娘)も人気がありますね。

▲ 正宗の幼馴染でたかさご書店の看板娘、智恵ちゃん。ボクっ娘

ヒロインの中でもいちばん自然体ですからね。
──本を並べている仕草にぐっと来たという感想もありますね(笑)。アニメなので、動作がかわいいというのは重要なのかもしれませんね。

原作を読むと、紗霧を始めとしたヒロインがとてもかわいく描かれているので、それは絶対はずさないのはもちろんですが、そこに加えて、正宗と紗霧が力を合わせて1冊のライトノベルを作るというストーリーが軸だと思っています。
だから、紗霧のかわいさはもちろんですが、二人で力を補い合って、1本のライトノベルを作るというのがシリーズ全体を通してのテーマになっています。そこがないと、女の子がかわいいだけのアニメになってしまう気がしています。2人が力を合わせて前に進んでいくというメッセージはオープニングにも込めているつもりです。
『エロマンガ先生』の現場が、スタッフ自身の思い出になるように
──Twitter上でリレーイラストなどもやっていて、スタッフの方たちのチームワークがよさそうですよね。現場はどんな雰囲気なのでしょうか。

スタッフに若い人が多いんですよ。竹下監督が親しみやすい感じなので、スタッフみんな和気あいあいとやっています。

仕事が楽しいほうが、単純に自分も楽しいですし。スタッフみんなの思い出に残ればいいなと思っています。スタッフはほとんどがフリーランスなので、このメンバーが集まるのは多分、今回が最後なんじゃないかなと思いますしね。

また、監督自らが積極的にスタッフを集めていましたよね。普通は制作の仕事なので、監督が自分で動くことはあまりないんですよ。でも、竹下監督に自らお願いされたら、やりますっていう人は多かったと思います。ほかの現場で知り合った方とも積極的に交流されていて偉いなと思います。
全キャラのファンに喜んでもらいたい

──これから最終回に向かって盛り上がってきているところですが、特にここを見てほしいというところはありますか?

個人的に8話が好きなんです。脚本を原作の伏見つかささんが担当されていて新鮮なんですよね。いつもと少し違うテイストになっていると思います。
──脚本家や作画の方などに注目して見る、という熱心なファンもいると思います。


紗霧の可愛さという部分にはすごく力を入れていますが、それ以外のエルフやムラマサなどの他の女の子キャラの見せ場なども用意しています。全キャラのファンに喜んでもらいたいという想いがあるので、ぜひ期待していてください!
──これからも楽しみにしています! 本日はありがとうございました。
次回の『エロマンガ先生』インタビューでは、紗霧ちゃんの声優・藤田茜さんが登場します。素敵なプレゼントもありますので、公開をお楽しみに!