押井守流バイオはジルが主役? 『バイオハザード:ヴェンデッタ』大ヒット記念「辻本貴則×押井守スペシャルトーク」

取材・文:近藤世菜 編集:長谷憲
現在絶賛公開中の『バイオハザード:ヴェンデッタ』は、バイオハザードシリーズ第3弾となるフルCGアニメーション映画です。
主役はシリーズを代表するキャラクター・クリス・レッドフィールドとレオン・S・ケネディのふたり。大規模バイオテロを阻止するため、"死の商人"グレン・アリアスに挑みます。
師匠・押井さんからのダメ出しに、辻本さんもタジタジ


辻本貴則さん(以下:辻本):本当はいけないんだけど「あ、こんなところにパソコンが!」って感じでちょっと見てもらったりしてました。それがレオンとケルベロスっていうゾンビ犬がバイクでチェイスするシーンなんですけど、実はダメ出しがあったんですよね?

押井守さん(以下:押井):今さら言ってもしょうがねえなって思って。動きがどうこうじゃなくてモデリングの問題だから。あれドーベルマンでしょ? 生のドーベルマン見たことある?

辻本:ある……はずです! でも、押井さんみたいにいやらしい目で頭からお尻まで見てるわけじゃないです。

押井:いや、本物のドーベルマンを見たらあの脚はない。ちょっと太すぎるんだよな。




辻本:たしか他のところを言うために脚は我慢したんですよ。たとえば5つ直してほしいところがあったら、3つを成就させるために2つは我慢するじゃないですか。


辻本:もうちょっとゾンビ感を出してほしい、グロくしてほしいってことだったと思います。

※1:実写版『バイオハザード』シリーズ


押井:別に俺は好きじゃないけどね(笑)


押井:血しぶきは『無国籍』でやってから意外と好きになったんだよ。

辻本:『東京無国籍少女』ってあんまり知られてない映画ね。


辻本:うちの「むーちゃん」って犬が出てるんですよ。

押井:あれでほとんど初めてってくらいで血をやったの。そのとき自分は意外と血が好きだってことが判明して。

辻本:爽快感ありますよね。

押井:間になるんだよね。「パッ」ていうさ。いい間合いができてリズムが作りやすい。あと色的に血って普通赤じゃん? プレデターは緑だけど。


押井:赤っていうのはさ、映画のなかでポイントのひとつになる。だから赤い血って意外といいなって気付いた。

辻本:(気付くのが)遅い!

押井:お前は使いすぎなんだよ!
押井流バイオハザードはジルとヘレナが主人公?

辻本:『ヴェンデッタ』を本気で語るのを製作委員会に何も言わずやったんですけど、そのなかで押井さんが次のバイオ(の監督)狙ってるんじゃないかってにおいがしたんですよ。

押井:狙ってるわけじゃないけど、オファーがきたら絶対断らない(笑)


押井:売り込んでるわけじゃないけど、私だったらこうするっていうのがあるわけ。

辻本:どうせ男性キャラには興味ないんでしょ?



辻本:今回のレベッカはどうでした?


辻本:バイオの女性キャラのなかで下から2番目? でも今回のキャラとしての出来はよかったでしょ?

押井:うん。出来はよかった。ただ私の好みではない。だって小娘だもん!

辻本:ほめてもらったのは、この2人(クリスとレオン)がいて、その間に色気のあるお姉ちゃんがいると取り合いになるから、レベッカくらいでちょうどよかったと。

押井:関係性が崩れちゃうからね。

辻本:今回に限りレベッカで正解と。ただ、自分で撮るんなら……?

押井:というかそもそも、この2人(クリスとレオン)を主役にする気はまったくないから。

辻本:誰を主人公にしますか?

押井:やっぱりジルでしょ。ジルがダントツ。2位、3位はいないくらい。

辻本:(会場が)若干引いてますよ(笑) ほかに出すとしたら?

押井:ジル単品でもできるけど、いつも言っているように、キャラクターっていうのは……


押井:そう。ジル単体だと動機がなくなるから、動機になる相手が必要。少なくともそれは男ではない。


押井:女好きっていうんじゃなくて、映画としてね。女性が主人公で相手が男だとそういうドラマになだれ込んじゃうじゃない? というか、そういう前提でしか観てもらえない。それが嫌だ。
だから女性2人にして、バリバリにハードにしたい。


押井:あんまり有名じゃないんだけどね。

辻本:(ゲーム版)『6』のとき、レオンの周りをうろちょろしてた人ね。シャツの襟立てて、胸のところはざっくりっていう。

押井:ファッションセンスはよくない。レオンに岡惚れしてるんだけど、レオンはエイダのことしか見てないのね。

辻本:このおじさんがやたら詳しいんですよ(笑) あ、実はパンフレットにも対談が載ってるのでぜひ。それで、ジルとヘレナだったら敵はどうしましょう? 敵も女性ですか?

押井:理想を言えば。一時は親父ばっかり撮ってたんだけど、もう嫌になったんだよ。若いお姉ちゃんもあんまりやらないし。バランスで言っても、どんな男を出したってダメなの、クリスでもレオンでも、ましてやウェスカーなんてぜんぜんダメ。だから動物系……やっぱり犬かな。

辻本:それは飼ってるの?




※2:『エイリアン2』の登場人物。エイリアンからの襲撃を生き延び、スラコ号に救助された少女。主人公リプリーと親子のような絆で結ばれる。

押井:そう。子どもがでると母性の問題が絡んでくるから、キャラクターに奥行きが出る。バイオの女性キャラは戦う女だから、そっちの方向ってあんまり描かれないじゃない。エイリアンのリプリーも、最後は母性に還った。女性キャラのひとつの落としどころとして母性っていうのがあるわけよ。


押井:あんまり同じもの続けて撮らないほうがいいよ。

辻本:やっぱり狙ってるじゃないですか!
バイオハザードの魅力は新しいモーションの「快感原則」を生み出したこと
実はバイオハザードにかなり詳しいということが発覚した押井さん。ハマったきっかけはYoutubeのプレイ動画だったとか。

押井:ゲームは難しそうだから自分でプレイする気はまったくなかったの。でもキャラクターが気に入ったんだよね。あと、モーションに関する新しい「快感原則」を生み出したってところ。アニメの人間だからモーションの「快感原則」には敏感なの。それが『バーチャファイター』以来の衝撃だった。

辻本:セガ対カプコンみたいになってる……!

押井:俺はメーカーとか気にしないから。アニメーションって、何かが動くときに生じる「快感原則」で成立してるわけ。(バイオハザードは)パンチ、キックだけじゃなく銃器がからんでくる。これは新しいなって。


押井:いや、手広く見てるんだよ! そのなかでアンテナに引っかかったのがバイオハザードの『5』と『6』だった。




大盛り上がりのトークショーは、辻本さんの「まさかあの押井守が自分のトークイベントの相手になってくれるなんて……! またこんな日が来てくれるように、いい作品をどんどん作っていければいいなと思います」というコメントで幕を閉じました。
映画本編はバイオファンにはたまらない演出の連続!

肝心の映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』は、とにかく最高の出来! 冒頭でクリスがアリアスのアジトである謎の洋館に乗り込むシーンは、ゲーム版の『1』を彷彿とさせる瞬間の連続で、制作チームのシリーズやファンに対する愛をひしひしと感じました。
そしてクリスとレオンという、シリーズを代表するふたりが共闘するアクションシーンは震えるほどうれしいもの。上映中何度も「カッコいい……!」という声がもれてしまいました。
ほかにもオマージュやお馴染みのシーンが多数盛り込まれていて、ファンにとってはたまらない作品となっています。
さらに、バイオならではの迫ってくるような恐怖、アイソレートビューを思わせるカメラワークの戦闘シーン、息もつかさぬハードなアクション……と映画としてのエンターテイメント性もバッチリ。
バイオハザードシリーズの知識がなくても楽しめること間違いなしなので、家族や友だちをバイオ仲間に引きずり込む、いいきっかけになりそう!
『バイオハザード:ヴェンデッタ』は絶賛公開中!
『バイオハザード:ヴェンデッタ』は、全国の映画館にて絶賛公開中! 6月17日(土)からは、数量限定の入場者プレゼントとしてオリジナルステッカーが配布されます。
バイオハザードファンはもちろん、ビギナーにもぜひ観てもらいたい『バイオハザード:ヴェンデッタ』。最新技術を駆使したフルCGアクションが生み出す爽快感と、バイオシリーズならではのヒヤッとするような恐怖感をぜひ劇場で味わってください!