“やさしさ”を絵とストーリーで大切に表現していきたい──『とつくにの少女』ながべさんインタビュー
画材は消耗してペン先がスカスカになったサインペン
──『とつくにの少女』のメイン画材はなんですか?
コンビニで普通に売っている、「細」と「太」のサインペンです。

実際に使われているサインペンを見せていただきました。ごく普通のサインペンですべて描かれているということに取材スタッフもビックリ。
──キャラクターや背景もサインペンで描いているんですか!?
“せんせ”のベタぬり、枠線、トーン処理、キャラクター以外のものを除いて、ほかはサインペンです。じつはちょっと特徴がありまして、使い込んでペン先がスカスカになるぐらい消耗して、力を入れるとようやくはっきり線が出るぐらいの状態が、『とつくにの少女』向きの画材になります。“せんせ”の髪の毛や服は、ペンのかすれが重要だったりします。

こちらが普段から使用されているペン先。若干ペン先がつぶれてきている状態でしたが、もっと使い込んでつぶれてしまった方が描きやすいとのことでした。
──自然なインクのかすれが出るようになるまで、どのぐらいペンを使い込むのでしょうか?
原稿用紙50枚ぐらいです。新品のペンもベタぬりで使うと、1話ぐらいでなくなってしまうので、頻繁に買い換えています。
──『とつくにの少女』は中間色を多用せず、画面のほとんどが白と黒のコントラストで描かれていますが、絵作りに関するこだわりはなんですか?
絵でこだわっているのは、漫画ではないことです。漫画という様式にのっとってはいますが、決して一般的に想像するような漫画という印象にならないように、絵本のように作ろうと決めています。だから、手を抜かないことと、絵本のような表現ができるように気を付けています。元々線を重ねていく描き方が好きなので、トーンなど中間色を使うのは最小限に留めたいなと思っています。
──表現で苦労していることはありますか?
森のシーンはすごく好きなんですが、毎回描いて、その度にイメージと違うと苦労しています。これは、こだわりが悪く出ているパターンで、白と黒だけで表現しようとすると、森をベタ塗りにするしかなかったんです。そうすると、“せんせ”が闇夜に消えていく(笑)。このままでは大変だと思い、森を線で描き始めたんですが、今度は背景が粗くなったおかげで一番目につくようになってしまい、キャラクターのシルエットが浮かびづらくなってしまったんです。今でも、状況によってキャラクターの描画を見やすさに絞ったほうがよいのか、雰囲気に絞ったほうが良いのか、悩んで描いています。

第4話冒頭のシーン。いなくなったシーヴァを“せんせ”が森の中へと探しに行く。
──では描いていて楽しいところはなんですか?
楽しいことだらけです! 一番描いていて楽しいのは木目。すごく好きで、木目が出るたびに割と時間を割いて描いています(笑)。蚤の市によく行くぐらいアンティーク雑貨が好きで、それに影響されてか、木目が出るように絵を調整したり、構図を変えたりしています。
──デビュー当初は背景を描くのに苦労したというお話しがありましたが、『とつくにの少女』は背景の描き込みがていねいで、幻想的な雰囲気がとてもよく出ていると思います。ここまで辿り着くまで、どんなことをしてきましたか?
『部長はオネエ』と『ニヴァウァと斎藤』を描いて、自分の中で背景嫌いを直さなくてはいけないという課題があったので、資料集めにとことん時間を割きました。自分の力ばかりを信じてなにもしないより、できないことはできないと認めて、自分のできる範囲で、できるためにはどうしたらいいのかと考えたんです。背景を描く手段を増やすために資料を集め、いいなと思う描き方をたくさん取り入れたら、あとは自分の色が出るまでとにかく量を描いてという感じで進めました。コツをつかむまでに時間がかかり、1年間描いてやっと慣れたという感じです。
──『とつくにの少女』の背景で参考にした資料はなんですか?
──量を描くのは大変ではないですか?
大変だなとは思いますが、僕は描くこと自体が楽しいので苦にならないです。今でも、移動の電車内でクロッキー帳に落描きをたくさんしています。休憩するときも、気分転換で落描きすることもありますね。
──漫画を描いているときの気分転換も、絵を描くことなんですね(笑)。描くことが大好きなながべさんから、ファンの方へメッセージをお願いします。
描くのが好きなら、ずっと飽きるまで描いていて欲しいですね。自分の夢を叶えたいというのは、いつかめぐりめぐって叶うものなので、無理をせず絵を描くことを楽しんでほしいです。できないことに無理して向き合う必要は無いと思います、人生は都合良くできているから。そして『とつくにの少女』第3巻が2017年4月に発売されるので、ぜひ買ってください!
ながべさんのスケッチブックを見せていただきました!
インタビューの合間に、普段からデッサンなどに使用しているというスケッチブックを特別に見せていただきました。移動中の電車の中や、公園のベンチに座ってなど、空き時間によくスケッチするとのことでした。

表情だけでなく、身体のラインの見せ方にも意識して描かれているようです。

電車の対面に座っている人を模写したものでしょうか? リュックを持った男性、居眠りしている女性などがリアルに描かれています。

スケッチペンと呼ばれるペンで描いたデッサン。こちらもペン先が少しつぶれている状態になっていました。

フクロウのデッサン。飼えるならフクロウを飼ってみたいとおっしゃっていました。
ながべさんに“せんせ”とシーヴァを描いていただきました!
完成!

『とつくにの少女』
月刊コミックガーデンにて好評連載中
http://www.mag-garden.co.jp/comic-garden/
Alterna pixivにてリバイバル連載中
http://alterna.pr.pixiv.net/