「お気持ち長文をぶつけられやすい」のはあなたがコナンだから/カレー沢薫の創作相談

他人からお気持ち長文をぶつけられやすい
今まで創作で培ってきた文章力や表現力を遺憾なく発揮した長文お気持ち表明が届くというのは想像しただけでIK(イマジナリーキンタマ)が縮む思いです。
それが1回なら、たまたま繊細ヤクザ改めナイーヴ反社会的勢力構成員の方の琴線に触れてしまったかなで済ませられるのですが、それが何回も続くとなれば何か原因があるのかもしれません。
まずあなたや相手の問題というより舞台からして事件が起きやすい環境という可能性があります。
相手がマイナーカプであるということは、事件は大体過疎ジャンルで起こっているのではないでしょうか。
事件件数だけで言えば過疎より大都市の方が圧倒的に多いです。
しかし大手ジャンルの揉めごとというのは「グランド・セフト・オート」みたいなもので、行きで強盗に遭うが帰りでも強盗に遭うため、行きの強盗の顔なんかイチイチ覚えていられません。
対して過疎ジャンルやカプというのは何せ人口が少ないため、そこで活動している人間とは嫌でも顔見知りになってしまいます。
それでも頑なに会釈以上のコミュニケーションを拒んだり、村人全員が「この村には俺一人しかいない」と思っていたり、セルフ村八分村を貫く村も多いのですが、中には村人同士で作品を見せ合い感想を言い合うことで飢えと寒さを凌いでいる村もあります。
村人同士の繋がりが強いからと言って即八つ墓村になるわけではなく、そもそも燃える資源も火をつける人手も足りないため、ただ牧歌的に時が過ぎ、いつの間にかダムに沈んでいる村が大半です。
ですが、ごく稀に村民のつきあいが密になりすぎたせいで、もはやジャンルもカプも創作活動すら関係なく、ストレートに「人間関係で揉める」という惨事が起きることがあります。
オタクも長いことやれば1回ぐらいは「あれは嫌な事件じゃった……」と目を皺と一体化させて遠くを見つめるしかない事件に遭遇するものですが、そう何回もあることではありません。
考えられる可能性としてはまず「あなたがコナン」ということです。
しかしこれはあなたが死神ですべての元凶というわけではありません。相手あっての行き違いであり、ケンカも一人では右手と左手の指相撲しかできません。
つまり「相手が金田一」の可能性が高いです。
マイナーカプという、わらべ唄が残っていそうな山奥の山村、コナン、金田一、何も起こらないはずがなく、なのです。
毎回同じような条件が揃うことにより毎回似たような長文お気持ち殺人事件が起きているのではないでしょうか。
では未然に事件を防ぐにはどうしたらよいかというと、まずあなたが過疎地の密な人間関係に向いていないので、大都市でドライな活動をするという方法があります。
現実でも、地元の田舎には馴染めなかったけど、都会に来て楽になったという人は大勢います。
しかし、そんな理由でジャンルを選ぶオタクはいません。
そもそもジャンルは選ぶものではなく落ちるものなので、たまたま落ちた沼が都会か過疎かは運でしかありません。
では、あなたの言動の何が金田一にじっちゃんの名にかけて長文を書かせてしまうのかを考えましょう。
フットワークの軽さを勘違いされる
まず相手は真面目でマイカーカプの長編を書いているというあたり、どれだけ人がいなくても一つのジャンルに長く腰を据えて活動するタイプなのではないでしょうか。
対してあなたは結構フットワークが軽い、もしくはいろんなジャンルで活動しているタイプではないでしょうか。
それが悪いわけではなく、他人に迷惑をかけていなければイナゴ上等です。
しかし相手は「これから僕がこの村を盛り上げて行きたいっす!」と補助金をもらってきた若者が次の日に「徒歩圏内にコンビニないとかww」と言って去っていったかのような「裏切り」を感じてしまっているのかもしれません。
その結果、中島みゆきの「ファイト」に出てくる、故郷を出ていこうとしている人に猛烈に怒っている人のように「なぜジャンルを離れるのか」というお気持ちを抑えきれなくなってしまったのではないでしょうか。
対策として、長く活動している村民に「みんなでアンソロ作ろうぜ!」みたいな「そのカプに対する並々ならぬ情熱とやる気」はあまり見せないようにしましょう。
あんまり威勢の良いことを言うと真面目ゆえにそれを真に受け「このジャンルの新しい担い手」として期待されてしまい、期待が大きいほどジャンルを去る時「裏切られた」と思われてしまいます。
人間関係も「半年ROMる」
次に「交流が派手ではない」というところもポイントです。
つまり相手はあまり社交的ではなく、人と仲良くなるのに時間がかかるタイプの可能性があります。
それに対し、あなたは割と人と距離を詰めるのが早いタイプではないでしょうか。
距離を詰めるのが遅いタイプと早いタイプがつきあうと「距離感」の認識に差が出てしまいます。
言って良いことと悪いことのボーダーというのは距離によって変わります。
初対面で相手をクソとかババアとか言って許されるのはリヴァイ兵長と毒蝮三太夫だけであり、それ以外は「天気の話」から徐々に距離を詰め、言って良いことの幅を広げていくしかありません。
もしかしたら相手は「まだ10メートル距離がある」と思っているのに、あなたは突然10センチの距離から剛速球を投げてしまっているのかもしれません。
それが「あの時言われてされて嫌だったこと」になっているのではないでしょうか。
対策としては人間に対しても「半年ROMる」の精神を持ち、半年はよそよそしいぐらいの敬語で、ジャンルや創作活動以外のプライベートな話はしない、などを心がけてみましょう。
あなたは相手にとって大きな存在だった
そして「作品が繊細、もしくは長編」というのも関係しているかもしれません。
もし相手が書いているがショートギャグなら感想も「まさかあそこで受けに刺さったのが攻めではなくロケット花火とは!」みたいな、短文かつ偏差値の低いもので良いのですが、繊細で長編だと、感想も深く長くなりがちです。あなたも丁寧な感想を送ったことがあるのではないでしょうか。
相手は創作をやるぐらいなのでもともと想像力は豊かな方と思われます。
よって、あなたが送った作品に対する感想を何度も読み返し、深読み、最終的に縦読みまではじめ「これは作品に対する感想ではなく自分に対する批判」と受け取ってしまったという可能性もゼロではありません。
しかし、このタイプは、例え感想を簡潔にしても「感想がそっけなかった、面白くなかった、嫌われた、私が何をしたというのか、お前を殺して俺も死ぬ」となるので対策が難しいです。
ただ言えるのは、あなたが無神経なせいで真面目で繊細なタイプの地雷を踏みやすい、というわけではなく、逆にあなたはコミュ症でなかなか友人を作れないタイプでも親しみやすいありがたい存在なのだと思います。
好きでもないカプの小説を1万字書けと言われても無理なように、ちょっと嫌い程度の相手に長文お気持ちメールは書けません。
相手にとって大きな存在だったからこそ、何かの行き違いで気持ちが反転し、それが長文お気持ちになってしまうのかもしれません。
つまり我々の大好物「クソデカ感情」なのですが、これは推しカプがぶつけあっているからうまいのであって、自分がぶつけられてもそんなに楽しくないし、むしろダイレクトに病みます。
どちらが悪いというわけではなく「相性が悪い」のです。
相性が悪い相手と無理して親密に付き合うよりは、問題が起きない程度の距離を保って付き合う方がよいと思います。
幸い相性が悪い相手の分析はできているので、今後過疎地で真面目で繊細な人見知りの長編書きに出会ったら、悲しいけれどいらぬ死人を出さぬため、コナンと金田一が一緒にいたら駄目なのだ、と言い聞かせ、そっと距離を取りましょう。

私の悩みは「他人からお気持ち長文をぶつけられやすい」ことです。
私はマンガで同人活動をしていますが、割合でいうと違う人から年一で届きます。
内容はさまざまで、「なぜジャンル移動するのか」というものから「あの日あの時あの場所であなたがした(言った)ことが実はすごく嫌だった」などです。
基本的には私はお気持ち長文の中で責められています。
また、長文を送ってくる人たちには共通点があることにも気づきました。
・交流が派手ではない
・性格が真面目
・マイナーカプ
・作品が繊細、もしくは長編
私自身はむしろ相手に好意的ですらあったのに、違う人から何度も長文をお届けされ、さすがに疲れてきました。
他人を変えることは不可能なのでできることなら自分が変わりたく思います。
どうすればお気持ちをぶつけられない人間になれるでしょうか。