「楽しく書いてるシリアスよりもギャグが評価される」その理由と仮説/カレー沢薫の創作相談

楽しく書いてるシリアスよりも、ギャグが評価される
私はすでに自分がギャグ漫画家なのか、それ以前に漫画家という設定なだけで、毎週主治医に「来週ジャンプラに載るんで先生も見てくださいね」と言ったところで病室に戻され、カルテに「経過観察」と書かれてないか自信がありません。
それでも主治医に「ここだけの話火の鳥は私が書きました」と言った覚えはないので、私は妄想の中ですらシリアス作家にはなれないのだと思います。
だからといってギャグ漫画家になりたかったのかというとそうでもなく、じゃあ一体お前は何がやりたかったんだと聞かれたら「やりたいことがなけりゃ生きてちゃいけないのかい?」とコブラみたいなツラでいうしかなかったのですが、40手前になって「逆転逆アナルなしおねショタじゃない女攻め」と急にビジョンがクリアになったので「不惑」というのはマジかもしれません。
しかし、今の私はそういうものを全く描いておらず、描きたくても描く技術がなく、なんなら自傷の恐れがあるので筆記用具すら持たせてもらえない、という状態なのですが、なぜそうなったかというと、20年以上前に遡ります。
個人HP時代の思い出
当時高校生だった私は初めてインターネットというものに触れ、そこでアマチュアでも自分の絵や漫画などの作品を発表している人がいると知り、ぜひ自分もそれをやってみたいと思いました。
もちろんpixivなどという便利なものはなく、今では歴史建造物として法隆寺に並ぶ「個人HP」を制作し、当時ハマっていた乙女ゲーをメインコンテンツに活動をしました。
ここで、初めてネットに作品を上げる高校生らしく、俺の最強にかっこいい推しの斜め45度棒立ち絵を上げて、カウンターが3(うち自分が2)しか回らないという現実にぶち当たって落ち込むぐらいならまだ可愛げがありました。
私も「なんてクールな絵なんだ」という褒められ方をされたかったのが本音です。
しかし個人HP開設前、すでに、俺最強推45棒立絵を誰かに見てもらいたすぎて、友人の自宅に「ファックス」で送りつけるという荒業や、アニメイト的な店の交流ノートにわざわざ家で描いた渾身のイラストを貼り付けて「人の描いた絵の上に貼らない方が良いと思います」というマジ注意を受ける武者修行をこなし、己の力量や「恥」という概念を学んでいたため、やる前から「こんな上手な人がいっぱいいるネット世界で私が格好をつけているだけの1枚絵を描いても誰も見ないし喜ばない」と小賢しい分析をして、ギャグならワンチャンあるのではと、最初からギャグ絵やギャグ漫画ばかり載せるサイトをオープンさせました。
その結果、高校生が初めて作ったサイトにしては結構訪問者もあり、掲示板という古代遺跡にコメントを彫ってくれるリピーターもそこそこいました。
そうなると、スケベ心が出てしまい、たまには羽や鎖、僕たちの罪が乱舞するクールでシリアスな作品も描いてみたいし、それも結構イけるのではと思うのですが、そういう作品はカウンター3(うち自分が4)、もしくは優しい常連の人が「こういうのも描くんですね!」と、よく見たら感想ではなくただの「事実」をコメントしてくれるだけでした。
そこでシリアスに耐え得る画力を身につける努力をすれば良かったのですが、それより目先の承認や感想を求めてしまい、ギャグばかり描き続けた結果、この有様です。
同様に悩む人が多いのは「間口の広さ」が理由
つまり当時の私は今のあなたと大体同じ体験をしていました。同様に、「シリアスよりギャグの方がウケてしまう。(本当はシリアスの方がウケてほしい)」という経験をしている人はかなり多いのではないでしょうか。
これは単にあなたや同様の悩みを持つ人に「シリアスよりギャグの方が才能がある」というわけではないと思われます。
まず、作品には読む前から「間口の広さ」というものがあります。
もしメリバを書くなら最初に「※メリバです苦手な人はご注意ください」と注意書きをするでしょうし、それを見た時点で「撤収―!」となるハピエン勢が何割かいるでしょう。
そもそもカプ創作であればその時点で読む人が絞られます。
対して、ギャグは「※キャラ崩壊注意」など、一応のエクスキューズを入れている人も多いですが、全く下ネタがない原作のクールキャラがケツで割り箸を割るなど、本格的に崩壊させていなければ、メリバカプ創作よりも「万人が読める」ジャンルと言えます。
さらに「※日常系注意」というのはもっとありません。
「日常系なら日常系タグ入れろ」と怒られるようになったら、我が国の不寛容もここまできたかという感じです。
つまり、ギャグやほのぼの日常系の方が、間口が広いため読む人が多く、それに比例して評価も高いという可能性があります。
二次創作だとさらにほのぼのギャグが好まれる
世の中でよりたくさん売れているのは、ギャグ漫画より基本シリアスなストーリー漫画なのだから矛盾していると思うかもしれません。
ですが、もしあなたの描いているものが二次創作であれば、読者の求めるものはまた変わってきます。
書き手が「原作で推しカプの結婚式が落丁しているから俺が描く」という動機で二次創作を始めることがあるように、読み手もpixivに原作で落丁している推しカプの結婚式を見にきている場合があります。
つまり「原作で見れないものを見にきている」のです。
原作で見れないものといえば、まず推しカプのDS(ドスケベ創作)、そしてゴールデンカムイ終盤で私が「別時空で元気に走り回る尾形を見せてください、人命がかかってるんです」と担架でpixivに担ぎ込まれたように、原作がドシリアスで何なら推しが死んだという人ほど、せめて二次創作ではギャグやほのぼの時空で生きる推しを見たい、という人も多いのではないか、と思います。
ギャグよりシリアスやメリバで伸ばす方が難しい
また最近の傾向として、超大作よりタイトにまとまっているものの方が好まれる、というのがあります。
即オチ2コマというように、ギャグやエロを2コマで成立させることは可能ですが、2コマシリアスは、逆に高度なギャグになってしまうことがあります。
つまりシリアスはギャグに比べ「長くなりがち」であり「長い」という理由で敬遠されることもあります。
寝る前とかだったら、小説作品のページ数が「16」な時点で「これは途中で寝る可能性があるから別のにしよう」となってしまう恐れが十分にあるのです。
もちろん、ギャグより伸びてるシリアスもたくさんあるのでシリアスが伸びないわけではないでしょうが「伸びやすさ」はギャグの方が上であり、あなたの作品もギャグの方が伸びているのではないでしょうか。
もしこの仮説が正しいとしたら、ギャグよりシリアスやメリバで伸ばす方が難しいということになります。
私は本音としてはカッコイイ絵や話、またはエロいもので褒められたいという気持ちがありながら、ギャグの方が誉められる、という事実を前にあっさりギャグしか描かなくなりました。
しかし、あなたはギャグの方が数字が良いという結果を見ても「じゃあギャグだけ描くわ」となってないのですから、目先の承認欲求に負けないぐらいシリアスやメリバを描くのが「好き」なのだと思います。
世の中には「長編女体化百合退魔忍パロ小説」のように、匍匐前進で入らないと頭を打って死ぬレベルで間口を狭くした創作をしている人もいます。
そういう作品を描いている人はハナから四桁ブクマなんて考えてないでしょうし、まず注意書きを突破できる人間が少ないということも理解しているでしょう。
それでも描くのは、1000ブクマより、自分の好きなものを描くことに価値があると思っているからであり、そういう人は描くものがどれだけ「ここに病院を建てよう」でも本人の精神は至って健康と思われます。
私は数字を気にしないと餓死の恐れがあるので気にしないわけにもいかないのですが、そうでなければ、数字を気にするのは病気の元です。
生活がかかっていないならあまり数字は気にせず、書きたいものを書く「健康に良い創作」をしていただけたらと思います。

カレー沢さん、はじめまして。
私は、かれこれ15年近く、創作をしています。作風はほとんどがシリアス、メリバ、シリアスからのハッピーエンドでたまにギャグ、ほのぼのです。
自分で言うのもなんですが、シリアスやメリバを書くのが好きで、SNS上や性癖が同じ人からは良い評価をいただいてます。
ところが、pixivに上げるとブックマーク数が多いのは息抜きがてら書いたほのぼのやギャグばかりです。たった一つだけ、2000ブクマ近い作品があるのですが(わたしの作品のブックマーク数の平均は、100~600の間が多いです)、それもギャグ系です。
自分としては、得意なはずのもの、楽しく書いてるものがまともに評価されてないようで、悩んでいます。
何故、ギャグやほのぼのの方がブックマークされ、シリアスはそれほどブクマされないのかというその理由がわからず、戸惑っています。