どこで探すの?バズらないとダメ?ガンガンpixiv編集部に聞いたネット投稿時代のマンガ家デビューへの道

構成/原田イチボ@HEW
スクウェア・エニックス×pixivによるWEBマンガ雑誌「ガンガンpixiv」が、2月22日で5周年を迎えました。「ガンガンpixiv」では、『幸色のワンルーム』や『おじさまと猫』、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』などネット発の作品が多数連載されています。
この5年間で、WEBマンガを取り巻く状況はどれだけ変化したのでしょうか? また、商業デビューのチャンスを掴む場としてSNSを活用する場合、意識するといいポイントとは? 「ガンガンpixiv」編集長の中川さん、副編集長の伊藤さん、編集部員の福本さんにインタビューしました。
絵が上手い人は、大抵他の絵が上手い人をSNSでフォローしている
── まず、「ガンガンpixiv」について簡単に教えてください。
── 「ガンガンpixiv」といえば、SNSでマンガ作品を発表することがそれほどメジャーじゃなかった頃から、SNS発のマンガに注力してきた印象があります。
伊藤:そうですね。Twitterでのマンガ投稿は、『幸色のワンルーム』が投稿され始めた2016年頃はまだ少なかったのですが、翌年の2017年頃から一気に増えた気がします。
── SNSをきっかけに商業デビューすることが今ほどメジャーじゃなかった頃の体験談として、作家さんから「編集者を名乗る人物から連絡があったが、偽物だと思って無視してしまった」という笑い話を聞いたことがあります。媒体の黎明期は、お声がけした作家さんにびっくりされたんじゃないでしょうか?
福本:昔は編集部に電話がかかってきたりしましたよね。「スクウェア・エニックスの編集者だという人からメールが来ましたが、これは本物ですか?」って(笑)。
伊藤:たしかにTwitterでのマンガ投稿が増え始めた初期は、こちらからお声がけした結果、そういう問い合わせが来ることがありました(笑)。さすがに今はなくなりましたね。
── ネット上のマンガをどのようにチェックしていますか?
中川:編集長になり、自分はもう作家さん探しからは離れてしまったので、ふたりに答えてもらおうかな。
福本:編集者によって方法は違うと思いますが、自分は「Twitterでよさそうな人を見つけたらフォローする」という地道なやり方をとっています。絵が上手い人は大抵他の絵が上手い人をフォローしているものなので、そこから数珠つなぎに大勢の方をチェックしていく感じです。それで、「これは!」と感じた方がいればDMでお声がけさせていただいています。あとはpixivのランキングも日間、週間、月間それぞれ50位くらいまで目を通しています。
伊藤:私も福本くんと大体同じですね。あとは「pixivision」さんで「今週の注目マンガ8選」のようにマンガを紹介していることがありますよね。実はあれもけっこうチェックしていて、実際そこから作家さんにお声がけしたりもしています。
商業作家がTwitterに作品を投稿することが普通になった
── WEBマンガを取り巻く状況は、この5年間でどのように変化したと感じますか?
伊藤:「ガンガンpixiv」が生まれた2017年頃から比べると、単純に作品の投稿数が増えただけでなく、第一線で活躍されている商業作家さんたちもTwitterに作品を投稿することが普通になりました。
福本:出版各社がSNSを当たり前にチェックするようになり、作家さんにお声がけする競争が熾烈化しています。だからこそ、こちらもよりスピード感が求められるようになりました。それと同時に、「すごくバズっているわけではないけど、ポテンシャルの高さを感じる方」を見つけることの重要さも増してきたように感じており、個人的にはそちらをより意識して作品チェックをしています。
── お声がけするときの裁量は、それぞれの編集者に持たされているのでしょうか? それとも「この作家さんに声をかけていいですか?」という話し合いが編集部内でそのつど行われているのですか?
── なるほど。だからバズった作家さんに素早く声をかけることができるんですね。ほかに、この5年間での変化はありますか?
中川:率直に言うと、「バズれば売れる」ではなくなりました。昔のTwitterは新人さんの発表の場でしたが、今はベテランの商業作家さんが連載の1話目をTwitterにアップしたりします。そうなると、同じバズったマンガでも、どうしても荒削りな部分が残る新人作家さんのほうは「単行本の購入までには至らず、Twitterで読んで終わり」になりかねない。今はそういう難しさがあります。
伊藤:Twitterに投稿するマンガとなると、昔は4ページでコンパクトに収める形式が主流でしたが、今は複数のツイートにわたって長編を投稿することも普通になりました。そういう意味では、多彩な持ち味が届く時代になったのかなと感じます。
福本:今は長編でもおもしろければ、ちゃんとバズりますよね。Twitterに適した形式という考えが薄れて、純粋なクオリティ勝負になったと思います。あと5年前はラフのままアップしている作家さんも多かったですが、今は商業原稿と遜色ない形式で作品をアップする方が大勢います。
絵が上手じゃないとデビューできないの?
── バズっている作家さん全員に連絡するわけではないと思います。「お声がけする/しない」の基準はありますか?
── やっぱり絵が上手じゃないとデビューできないのでしょうか……!?
中川:そうとは限りません。それほど絵が上手じゃなくてもストーリーが抜群だったら売れる場合は十分ありますし、ギャグなどのジャンルでは必ずしも緻密な画力を求められるわけではありません。編集者としては、画力単体ではなく、画力とその他の要素のバランスを鑑みます。
伊藤:だから絵が上手くないからと絶望する必要はありませんよ!
── それを聞いて安心しました! 伊藤さんと中川さんは、「お声がけする/しない」の基準をどこに置いていますか?
『クールドジ男子』のようにイラストからマンガ化連載することも。連載化の裏話はコチラ。
── 完成イメージというのは?
中川:「その作品のどういうポイントを押し出して、世の中に発信していくか」ということですね。
伊藤:中身さえおもしろければ売れるとは限りません。単行本の帯などで端的に言えるアピールポイントがあって、担当編集者がそれを把握できているかが重要なんです。
── 「ガンガンpixiv」の連載作品を例に解説してもらえますか?
── なるほど。「一言で心を掴むようなポイントを作品が持っていて、それを担当編集がしっかり把握しているか」ということですね。
ちょっとした落書きや二次創作からも「興味の方向性」が見える
── 作家さんの過去のSNS投稿はどれほどチェックするものでしょうか? ツイートから感じられるお人柄とか……。
福本:過去作はけっこうチェックしますが、プライベートのツイートはそこまで見ていません。
伊藤:SNSの投稿だけで全部わかるものでもありませんしね。お声がけの段階で、過去のツイートなどを理由に弾くことはほぼないです。
── 編集者としては、落書き程度の作品も見ておきたいものですか? それとも全力で制作した作品だけをチェックしたいものですか?
伊藤:見られるものは全部見たいです。ちょっとした落書きや二次創作からも「こういうものに興味があるのか」ということがわかりますしね。好きなことは武器になりやすいので、編集者は作家さんの興味の方向性も知っておきたいものなんです。
── 恥ずかしくて過去作をつい消してしまう作家さんもいますが、それは編集者的にはちょっと残念なものなんでしょうか?
伊藤:そうですね。「2年前はこんな作品を描いていたけど、今はこんな絵柄なんだ」という努力値のようなものも見えてくるので、過去作がたくさん残っているに越したことはありません。
── 作家さんに向けて、「編集者としては、こういうふうにしてもらえるとありがたい」というポイントはありますか?
伊藤:日常のツイートも含まれるためTwitterはどうしても過去作を遡りにくい部分があるので、pixivなど作品だけまとまった場があると助かります。
福本:Twitterのプロフィールにpixivアカウントが記載されていない場合は、作家さんのお名前で検索をかけるのですが、Twitterとpixivでユーザー名が微妙に違っていたりするんですよね……。Twitterとpixivの導線をきれいに引いていただけると、編集者的にはうれしいです。
伊藤:あとは連絡先ですね。もちろんメールアドレスを載せるのは勇気がいりますし、それぞれのご事情があるとは思うのですが、やはりお声がけするにしても連絡先がわからない方が多く、リプライだと埋もれてしまいがちで……。TwitterのDMを解放していただけるだけでも非常にありがたいです。
作家と編集者が一緒に試行錯誤を重ねていく環境
── 素朴な疑問なのですが、編集者から声をかけて作家さんに断られるものですか? 他社からも複数オファーがあるならともかく、自分だったら二つ返事でOKしちゃいそうですが……。
伊藤:お断りされることのほうが多いです(笑)。お返事をいただけない場合も多いですしね。そもそも商業に興味のない方や、「昔は商業を目指していたけど、自分には向いていないので同人活動に留めている」という方もたくさんいらっしゃいます。
福本:10人に声をかけた場合、まず読み切りの掲載までたどり着くのに、おひとりいらっしゃるかどうかという感触です。そもそもお声がけしても、お返事をいただける方が少なく、お返事をいただけても実際にデビュー目指して取り組んでいただける方がさらに少ないので…まぁでも、その大変さも含めて楽しい仕事なんですけどね。
── そんなに少ないものなんですね……! 最初の打ち合わせではどんな話をするんでしょうか?
伊藤:まず作家さんになぜお声がけしたかをお伝えして、その作品をどうしていきたいかを作家さんに伺い、お互いの考えやヒットするイメージをすり合わせています。作家さんにとっては緊張する場面だと思いますが、こちらも緊張しているので安心してください!(笑)
福本:最初の打ち合わせは、お互いの好きなものを語り合ったりして、仕事の話というよりは自己紹介とかご挨拶のような感じですね。「この作品はすごい!」と思ってお声がけさせていただいているので、編集者側は作家さんに対して好意100パーセントです。決して面接官のように接するわけではないので、あまり不安がらなくても大丈夫です。
── 「出版各社が作家さんにお声がけする競争が熾烈化している」というお話も出ました。その競争の中で、「ガンガンpixiv」の強みはなんだとお考えですか?
海外でも大人気の“チェリまほ“。著者インタビューはコチラ。
中川:正直なところ、お声がけする段階で「○万部刷ります」のような条件を提示できる出版社ではありません。そのぶん、二人三脚でしっかり作品を制作していきたいということはお伝えしています。
伊藤:バズった作品をそのまま掲載するのではなく、作家さんと編集者が一緒に試行錯誤を重ねていくことを大切にしている点だと個人的には思います。だからこそ、「この媒体であれば、自分の思いを汲んでくれる」と感じてくださった作家さんがオファーを受けてくださるのかなと思います。
── 最後に商業デビュー志望の方々へのメッセージをお願いします。
福本:弊社に限らず、現代のマンガ編集者たちはTwitterやpixivをすごくチェックしているので、SNSへの作品投稿は仕事に繋がるチャンスを生み出します。練習の場としても、リクルーティングの場としても、ぜひSNSを活用してみてください。
伊藤:バズるかどうかは、運も含めていろいろな要素が関わります。だから、バズらなくても諦めずに作品を描き続けてください。「今まで全然反響がなかったのに、突然ヒットを飛ばした」という作家さんも大勢いらっしゃいます。反響をなかなか得られず描き続けることは非常に苦しいことだと思いますが、それでも描き続けることがやはりヒットに繋がると思います。ただ、お一人で続けるのは苦しいことだと思いますので、もしご興味があればスクウェア・エニックスに持ち込みしていただいて、ご自身の可能性を探るお手伝いを我々にさせていただけたら幸いです。
中川:「ガンガンpixiv」に対して、「ネットでバズったマンガを連載している」というイメージを持っている方が多いと思いますが、まだバズっていない作家さんにもお声がけしています。オリジナル作品を発表していない方に「この世界観に合うかもしれない」とコミカライズのご相談をすることもあります。人の目に触れることは成長にも繋がりますし、ぜひ気軽にSNSに作品を投稿してみてください。スクウェア・エニックスは出版社として規模がそれほど大きいわけではありませんが、そのぶん編集部員それぞれが真面目にマンガ作りに取り組んでいます。編集部員には「作家さんと一緒に作品を良くしていこう」という指導をしていますし、実際に情熱を持った編集者が多い出版社だと思っているので、ぜひ持ち込みをしていただけるとうれしいです。
pixivコミックでうれしいキャンペーン実施中!
ガンガンpixiv掲載作品15作品の直筆サイン色紙が当たるチャンスをお見逃しなく!