たくさんの応募ありがとう!第2回百合文芸小説コンテスト選考者による講評

大いに盛り上がった第2回百合文芸小説コンテスト。
膨大な作品数を読んでいただいた、各媒体の選考者に改めて講評をいただきました。
受賞作だけでなく、残念ながら受賞には至らなかった良作、百合文芸小説コンテストの総評、もし次回の百合文芸小説コンテストがあるならどんな作品が読みたいかもうかがっています。
コミック百合姫編集部による講評

大賞
母と娘、そして母のことが好きな「叔母」という3人の関係を、娘が大人になっていく過程を通して描く本作。それぞれの思いが丁寧に、かつ冗長にならずにまとめられており、「百合」をあつかった短編としての完成度が非常に高い作品でした。平易ながら心地よいテンポの文章で、すっと内容が入ってくるという点でも他作品よりも頭一個抜けていたと感じました。
自分が好きになった相手への思いがどうしようもないことを知りつつ、それでもその思いを抱えながら生きていく娘の半生によって、他人を想い慕うことの残酷さと力強さの両面を描き出しています。終盤で明かされる「叔母」の想いもまた、袋小路であっても希望と慈愛に満ちたもので、それをしっかりと受け取った娘がまた前を向いていて生きていく様はとても良い読後感を与えてくれました。
人が想うということへの向き合い方が伝わり、それを短編というボリュームの中にしっかりと収めていたという点で、大賞にふさわしい作品だったと思います。百合姫賞
コスプレをした自撮りをSNSにアップして承認欲求を満たす日々を送る百花(ももか)と、「少女」という存在を撮り続けるカメラマンのコウ。「理想の少女像」というテーマを軸にまとめられた本作は、お互いに憧れ、それぞれが持つ理想が故に、すれ違うことが決まっている2人の、人生の中で一瞬だけきらめく出会いを切り取ったような切なさを持っていました。
冒頭のSNSのやり取りのリアルさから浮かぶ百花の抱える漠然とした虚無感、対象的に華やかな撮影、一瞬しかない楽しげな二人の様子など、短い中にテーマを際立たせる描写があり、読みやすく、それでいてとても印象に残っています。理想の自分でありたい、傍から見て恵まれていても自分にとっての理想であるとは限らない、そういった王道なテーマを無駄なく、切なさの残るラストに向けて書き切っており、絵的なイメージを喚起してくれる作品でした。
受賞には至らなかったけれど良作をあげるとしたら
百合文芸小説コンテスト総評
「百合」という一つのテーマに対して、多くの人がそれぞれのアプローチを持つようになったという印象が強い第2回の百合文芸コンテストでした。本来なら同じコンテストの土俵にいないであろう作品たちが、「百合」という軸のもとに集い、多くの人にとって刺激になるコンテストになったのかなと思います。それだけに、受賞に至った作品は、何が書きたいのか定まっていて、地力となる文章の力が備わっている作品だと感じました。
第三回百合文芸小説コンテストへの期待
SFマガジンによる講評

SFマガジン賞
SF要素のあるものに一通り目を通していくなかで、SF設定あってこその(現実だけでは描けない)感情の変化や、逆に百合を取り込んだからこそのセンス・オブ・ワンダーを見せてくれるような作品を評価していきました。
『キャッシュ・エクスパイア』はサイバーパンク的な設定が可能にした出遭いを描くという意味で前者の、『雲のかたち、百合色の雲』は百合という関係性が人類にどのような影響をもたらすのか、という問いを与えることで後者の魅力を強く感じたため、悩みに悩み抜いた結果、同時受賞という形とさせていただきました。
受賞には至らなかったけれど良作をあげるとしたら
受賞された方々の複数投稿作、negipo『仔シャチの舌』と毘沙門天ゆるいこ『あなたに芸術を捧げたい』はそれぞれ非常に質が高く、とくに前者はどちらを大賞に挙げるか悩みました。
ほか、兎月竜之介『終末で背中合わせ』は商業にあってもおかしくないレベルと思います。昨年のソ連百合でおなじみナムボク(南木義隆)『僕の母の通夜と七人の女たち』も楽しめました。どちらも安定しているぶん、逆に言えば賞の性格上、短篇で尖ったものが評価されやすかったのかなとも思います。あと蚕豆かいこ『ヤンレズ攻略RTA』はドライブ感が良かったです。ただちょっと長いので、この手でいくなら量を半分くらいにしてアクセルがん踏みで突き抜けたほうが評価されやすくなるかも。
百合文芸小説コンテスト総評
当たり前といえば当たり前ですが、百合の数だけ関係性があって、そこに同じものはひとつとしてない……という「世界に一つだけの花」の歌詞を地で行くような気付きを得ることができました。また、百合SFの盛り上がりを膨大な作品数によって物理的に実感することができて、1年半ほど前から孤独に百合SF特集を企画していた身として感慨深かったです。
第三回百合文芸小説コンテストへの期待
傾向とかはとくに問いませんので、言葉や物語、関係性の力によって読者を本気で殴りに、あるいは抱きしめにきている作品が読みたいです。あとは「「速度」」のあるやつ。
ガガガ文庫による講評

ガガガ文庫賞
シリーズタイトルは『たとえ世界のすべてを敵に回しても、あなたの敵で居続ける。』全4話。
「百合」「ライトノベル」「趣味嗜好」を混ぜ併せたような作品でとても好きな作品です。
『人を呪わば穴二つ』に近いような、自分が見下していた女と入れ替わったスクールカースト。どこかで壊れた、というよりも歪められてしまった、相手に対する感情がこれからどれだけぐちゃぐちゃに混ざるんだろう、と楽しみな話。
傍から(読者)としての目線で見たとき、「この二人の因果はどこから始まったんだろう」と、もっとキャラクターについても、作中描写の前後も知りたくなる作品です。
「お前の敵であり続ける」それは、引力みたいなもので、生きている以上切り離せない関係――愛ですね。二人の“結末”を見たいと思いました。
相手のことが好き過ぎるがゆえに取る常軌を逸した行動、いいですね。もっと歪んで楽しませてほしい。受賞には至らなかったけれど良作をあげるとしたら
凸凹身長差ペア、良いですよね。キャラクターの個性や生い立ちを想像しやすく、生き生きと動く主人公がかわいらしい。小さいキャラクターが屋上から他人を見下ろし、「自分は怪獣だ」というシーンも、芯を感じさせます。
改善点を上げるとすれば、Webで読ませる、読ませやすくする、という点で、改行や行アキを適度に入れ、現代の読者に読みやすくさせる、という手段を用いたほうがよいと思います。続きを是非書いてほしいです。
百合文芸小説コンテスト総評
前回よりも更に幅が広がり、「女と女の間に生じる関係性」を膨らませた作品が増えた、と感じました。なかでも、大賞の『太陽の焼け跡』は美しくきれいでありながら、吐き気を催すくらい残酷だと感じ、読後語り合える作品だと思います。「どうやったら思い浮かぶの、その世界?」という作品や、ともすれば読者を置いてけぼりにしてしまうようなあらすじから、読んでみると唸るような作品も多かった印象です。
第三回百合文芸小説コンテストへの期待
次回開催時点での流行もあると思うのですが、欲を言えば、抽象的なのですが、ウケの狙いは最低限、残りは作者自身の中から溢れ出てきた百合の世界をもっと多く読みたいです。
書泉百合部による講評

書店「書泉」の百合好きスタッフが、百合作品を盛り上げる為に結成した部活動です。
各店舗で棚の展開等を行い、ツイッターでも随時百合作品の情報を発信しています。
書泉百合部賞
強烈に目を引く作品でした。百合という関係を大事に描かれていることに大変惹かれました。著者であるみつえさんの作家性が感じられるタイトルや展開は、「依存」の詰まった百合を「仕掛け」が詰まった作品として仕上げており、読者を楽しませるエンターテイメント性を強く感じました。このタイトルに惹かれた読者は、間違いなく本作を楽しめるはずです。短編という枠の中で、キャラクターの内面の揺れ動きが非常に感情豊かに描かれており、その点も楽しませて頂きました。
趣味人専用書店「書泉」の百合部である「書泉百合部」が、趣味人たちに強くお勧めしたい、魅力の詰まった作品です。
百合文芸小説コンテスト総評
第2回となり、前回にも負けない盛り上がり、熱量を強く感じさせて頂きました。今回特におもしろかったのは、前回と作品の流行が変わっていることと、枠にとらわれない作品が非常に多かったことです。
恋愛、SF、歴史、様々なジャンル全てに百合が内包されている……という、多様な作品の数々に驚かされっぱなしでした。
また是非、楽しませて頂けたら幸いです。第三回百合文芸小説コンテストへの期待
ジャンルとしては、個人的に百合オメガバース作品を読みたいですね。そしてジャンル自体がブーム化して、たくさんの作品を楽しめるとより幸せです。
新たなジャンルが様々な視点から描かれることで、新たな王道展開が生まれ、次世代へと繋がっていく。このコンテストで、そんな流れが定番化していったらいいなと勝手に考えています……。
pixiv小説編集部による講評

pixiv賞
ポッドキャストをこっそり聞く、という一方通行のコミュニケーションが百合文芸と大変相性がよいと思いました。 自分のことを好きなはずの人の声を聴く、という自分優位の状態から段々と立場が逆転していく展開のおもしろさもさることながら、ファン心理、好意、独占欲とが入り混じった複雑な心理が丁寧に描かれていることに強く惹かれました。
他の作品よりもかなり長いことがネックになりましたが、文章が美しいと特に感じられた作品でした。 登場人物や情景の描写に説得力があり、どんな空間で、どんな人の、どんなところをみて好きになったのかがすっと入ってきます。 長編作品ならではの登場人物への強い感情移入を楽しませていただきました。
昨年大きく話題になった「ソ連百合」を彷彿とさせる異色作です。 歴史上の出来事をしっかりと扱ってストーリーを語りきってみせた筆力は突出していたと思います。 受容できるか人を選ぶ事柄を扱っているので、人によって良し悪しが別れる作品ではありますが、それらをねじ伏せるおもしろさや熱量の高さがありました。
なんだこれは、と興味を惹かれるタイトルを、少ない文字数ながら印象深い形で瀕死の恋人に向かって言わせる構成の巧みさが際立っていました。 全編を通して暴力的に発露している怒り、綺麗に終わらせてしまう無慈悲さなど、徹頭徹尾殺伐とした雰囲気を描いていて、完成度の高さを感じました。
「尊い……」と口をついて出てしまいそうなほどに可愛い二人の様子を描いたラブコメでした。 「相手は自分のことが好きだ」という確信のもと、相手が告白しやすくするための行為がエスカレートしていく展開に笑いを抑えることができません。 百合「文芸」コンテストではございますが、多様な作品を寄せていただいておりますので、受賞作にもその多様性を反映させたいと考えています。
佳作
歯科技工士など、特定の職業に関する説明が多いのですが、それが上手く作品に必要な要素になっていました。直接的な好意の言葉を使用せず、会話の端々や行動から本気で相手の隣にいようとしていることが伝わってくるところが心地よい作品です。

さくちゃんといっしょ
by にこ
受賞には至らなかったけれど良作をあげるとしたら
あらすじはテーマソング、半角カナの効果音や台詞がある、などコメディとしての振り切れ方が強すぎる作品でした。ラストに思いもよらなかった人物が出てきたりと構成がしっかりしている点も含めて大変おもしろかったのですが、百合文芸コンテストの枠に収まり切れませんでした。 社会人百合としての擬態を強くすれば、おもしろさやラストの衝撃を残したままもっと評価されたのかもしれません。
百合文芸小説コンテスト総評
総じて作品のレベルが高く百合の方向性も様々で、どれを一次選考で残すのか、どれに授与するのかが大変に悩ましいコンテストでした。 pixiv小説の百合文化が成熟している証であるように思います。 筆力の高さ、作品に込められている情熱に驚かされることが多く、刺激に満ちた選考を体験させていただきました。 「百合」とは……? と改めて問い直すことも多々ありましたので、pixivの百合ファンの方々の感想も様々な形で発信していただけますと嬉しいです。
第三回百合文芸小説コンテストへの期待
第2回百合文芸小説コンテストの受賞作品が冊子になりました
「第2回百合文芸小説コンテスト」にて大賞・百合姫賞・SFマガジン賞・ガガガ文庫賞・書泉百合部賞・pixiv賞を受賞した作品を収録した「百合文芸小説コンテストセレクション2」が、全国の書店で5月下旬に発売することが決定いたしました。
書店にてご購入頂きますと、DSマイル先生のイラストが麗しいクリアファイルも特典として付属します。
上記のお取り扱い店舗にてご購入ください。
またBOOTHでの通販も取り扱っておりますので、遠方の方はこちらをご利用ください。(※BOOTHでのご購入の場合は特典のクリアファイルが付属しません)