恋人に個人サイトを見られても堂々とすべきだった「ヲタバレ」の思い出/カレー沢薫

文/カレー沢 薫
『ヲタクに恋は難しい』実写映画公開にちなみ、テーマは「ヲタバレ」だ。
しかし、最近はヲタク=恥ずべき趣味という風潮も薄れており、自分がヲタクであることを自虐するヲタクも減ってきている。
むしろパートナーがヲタクであることに引いたり、あまつさえヲタクであることをやめさせようとするようなモラハラリンピック堂々金メダルな輩はこちらから願い下げだ。
以上が令和に相応しいキレイごとだが、実際はそう簡単ではない。
誰だって「趣味というのは法や人の迷惑にならなければ自由」と頭ではわかっていると思う。
だが「お気持ち」は別であり、それが自分の家族や恋人であればなおさらだ。
私だって「性癖は自由! ラブ&アヘ顔ダブルピース!」と口では言っていても、自分の夫にゴスロリで近所を徘徊する趣味があり、しかも顔はおっさんのまま服と髪型だけがカワイイという、はまだばみゅばみゅスタイル、とわかったら、ピースの角度が3度ぐらいになるし「やめてほしい」と思わない自信はない。
ゴスロリというありふれた趣味でも身内であれば、それはまたちょっと話が別なのだ。
パートナーが「ヲタク」とわかって反射的に戸惑ってしまう相手の気持ちわからなくもない。
受け入れるにしても、それなりに時間と葛藤がある気がする。
よって「ヲタク」であることは恥ずべきことではないが、生理的にパートナーが引いてしまう恐れがあるため、ヲタクであることを明言せずに交際を始めた場合、いつヲタクであることを言うか、または自然に任せるか、もしくは隠すかは未だに悩ましいところである。
また、伝えるにしても「説明が面倒」なのだ。
自分自身ですら、推しの新規絵を見る度に「コノ、ムネニ、アフレルモノハ、イッタイ……」と初めて感情を得たAIのように混乱しているのだ。
そんな自分でも理解不能なものを、他人に説明しろという方が無理である。
してやっても良いが、その場合は13時間ぐらい時間をドブに捨てる覚悟を持っていただきたい。
よって私はパートナーに対し、ヲタクであるということをわざわざ伝えたことはない。
だが、特に隠しもせず、相手に徐々に勘づかせていくというスライド方式でやってきた。
それでわかったことは、例え相手が家族であっても、金を使い過ぎるとか、何をおいても趣味を優先させるとか、自分に影響がない限り、人は他人の趣味にそこまで関心がない、ということである。
「ヲタクなので冬と夏3日程度姿を消しますが、私は元気です」など、相手の都合に影響がある場合は説明と理解が必要かもしれない。
しかし「拙者、女攻め過激派逆転地雷逆アナル審議派侍と申す!」と突然聞かれてもない名乗りを上げて切りかかるのは、ただの辻斬りである。
その点私は、女攻め過激派逆転地雷逆アナル審議派侍であると同時に、自宅神推し同担拒否過激派である。
よって、ヲタ活動のほとんどがパソコンとスマホの中で済むので、特に自分がヲタクであることをパートナーに説明しなければいけない状況もなかった。
「毎日『推しカプ名 R-18』で検索するのはやめろ」と言われても困るし、言われてもやるに決まっている。
故に「ヲタバレ」という言葉自体にもそんなに恐れを抱いたことがなく、そんなにキツイことかと思っていたが「割とキツイ」ということを身をもって知ったことがある。
「サイトを見つけた」
20代前半ごろ、交際していた人がいた。相手も私がヲタクであることは大体わかっており、私はいつも通りのノーガード戦法でいたため、ポロリと「サイトを持っている」という話をしてしまった。
生まれながらのpixivキッズたちには「サイト」と言っても通じないだろうが、昔はpixivなんて便利なものはなく、絵や小説を上げるためにはわざわざ個人HPを作る必要があった。
よって、推しカプの創作を見つけるにも、検索サーチとかリングとか、個人HPのリンクをたどるという方法をとるしかなかった。
しかし個人HPのリンクというのは「おつきあい」で貼っていることもあるため、神サイトのリンクなら神サイトに繋がっているに違いないと思って飛ぶと、全く関係ない手芸のページに飛ばされたりする。
ババアにこの手のヲタク日本むかし話をさせると長くなるので割愛するが、私も個人HPを持っており、自作のイラストや漫画を掲載していた。
その話をした後日、彼に「サイトを見つけた」と言われた。
ちなみに「サイトを持っている」以外何も言っていない。つきあって日も浅く、自分のパソコンや携帯も触らせていないし『ときめきメモリアルGS』なんて言葉は口が裂けても言っていない。
まさかそれだけの情報で見つかるはずがないと思ったが、彼の口からさらに、そのときの「サイト名」が発せられたのだ。
私は「はばたき市のバーサーカー」と名乗っただけで真明を看破された、サーヴァントにように狼狽えた。
ヲタクであることがバレるのは良い、好きな漫画やキャラを知られるのもまあ良い、BL好きとか夢女、NTRビデオレターで永遠に抜ける、とか性癖を知られるのもギリギリセーフだ。
しかし「自作のファンアートをパートナーに見られる」というのは別格である。
「二度と見るな」としか言えなかったが、私が止められても「推しカプ名 R-18」で検索するのをやめないように、知られた以上、閉鎖しない限りは見ようと思えば見られてしまう。
「身内にバレたため」という理由で姿をくらます人の気持ちが良く分かった。
ちなみに、どうやって見つけたのかは未だにわからないのだが、瞳に映った建物から住所が割れてしまう世界である。
有識者が本気を出せばバレないわけがないのだろう。
さらに、バレたときの反応でも「狼狽」という下手を打っている。
こちらが、慌てたり隠そうとしたりすると、相手も「これはそんなに必死で隠さなければいけないほど後ろめたい趣味なのだな」と感じ、偏見を助長させてしまう。
それに、あまりにも堂々としていれば逆に気づかれないということもあるのだ。
達人の技が早すぎて止まって見えるのと同じである。
これも昔つきあっていた人だが、初めて部屋に行ったときから、壁にクソでかエロゲーのポスターが貼ってあったのだ。
普通なら、自分を棚に上げて引いてしまうかもしれない。しかし、あまりにも堂々と貼ってある上、相手も「まずいものを見られた」という態度が一切なかったため、彼氏の部屋にでかいエロゲーのポスターが貼ってあるという事態も「空に雲が浮かんでいる」ぐらい自然に受け入れてしまった。
初めて彼女が家に来るときぐらい剥がせよ、と思ったのは別れてからである。
やはり、大事なのは自分の趣味に自信を持つことである。
「ヲタバレ」で相手が引くのは、自分のうしろめたさが相手に伝わっているせいかもしれない。
バレても、ヲタクらしく素数でも数えて「私はそれが好きだけど、それがなにか?」という態度をとるべきだろう。
ヲタクらしく恋をする『ヲタクに恋は難しい』本日2月7日より公開!
【あらすじ】
26歳OLの桃瀬成海は、転職先の会社で、幼馴染の二藤宏嵩と再会する。ルックスが良く仕事もできる宏嵩は、実は廃人クラスの重度のゲームヲタク。そして成海もまた、マンガ・アニメ・BLをこよなく愛する隠れ腐女子であった。周りの人々にヲタクだとバレる「ヲタバレ」を何よりも恐れている成海はその本性を隠しており、真実の自分をさらけ出せるのはヲタク友達の宏嵩の前だけ。会社が終われば2人はいつもの居酒屋でヲタ話に花を咲かす。男を見る目がない事を嘆く成海に対して宏嵩は「ヲタク同士で付き合えば快適なのでは?」と交際を提案。こうして2人はお付き合いすることに。
お互い充実したヲタクカップルライフを始めるはずだったが、時に恋愛とは我慢、妥協、歩み寄りが必要なもの。“恋愛不適合”な2人には、数々の試練や困難が待ち受けていた!