米山舞、個展の全貌を語る。連作「SHE」で描いた、困難に立ち向かう”彼女”たち

インタビュー/虎硬
編集/佐久間仁美
現在、pixiv WAEN GALLERYで開催中のイラストレーター米山舞さんによる個展「SHE」。業界関係者の注目度も高く、ファンはもちろん著名クリエイターも数多く訪れ、連日大きな賑わいを見せています。米山さんはアニメ『キルラキル』『キズナイーバー』『プロメア』など、数々のビッグタイトルにメインアニメーターとして参加するキャリアを築きながらも2018年、イラストレーターとして再スタートを切りました。
今回の個展では新たに描き下ろした9枚のイラストと共に、個展のタイトル”SHE”に込めた自身の作品への思い、作家としてのこれからを伺いました。

── あらためまして個展開催おめでとうございます。2019年にスタートしたpixiv WAEN GALLERYとしては、今年の締めくくりの展示となりました。米山さんとしてこのタイミングの個展はどういった意味を感じられましたか?

── 今回は個展のために多数の描き下ろしを展示をされてますよね。これはご予定通りだったのでしょうか?

── 普段イラストレーターさんはご自身の作品を語る機会は少ないかと思うのですが、今回は個展のテーマを通じてそれぞれの作品について伺います。

彼女たちが、それぞれ対峙するもの


── このイラストから米山さんのスタイルができてきたように思えます。それまでもとても上手でしたし、注目されていましたが、なんというか独自の作家性が強くなってきたかなと。



テーマに対してはこの絵はわかりやすいかも。戦っている情景です。私が絵で感動した原体験としてTVアニメ『セーラームーン無印』の最終話でセーラー戦士が全員死ぬシーンがあって。それが見ていたら、子供ながらにとても美しいと思ってて。そのシーンを自分の絵でもやりたかったところがあるんですよね。だから髪とかも乱れてる、でもその姿が綺麗みたいな。連作なので壁に配置する色のバランスがかなり難しく、白系でバランスをとりました。
私の中では絵が「歌」みたいであってほしくて。歌ってどこのフレーズを歌ってもその歌になるというか、そういう断片的な要素からもイメージができるところが良いと思ってます。ある意味で曖昧な存在というか。絵って具体的だから、そういうイメージの輪郭をぼかしたいと思っていていろんな見せ方を試してます。

この作品は1~2年前からずっと描きたかったテーマですね。SNSで全身整形の過程を公開しているアカウントがあって、そこからインスピレーションを得ています。その人達が手術の経過を写真でアップしていくんですけど、脂肪吸引をすると経過によっては身体から液が滲み出てて、包帯が真っ赤になります。実際に痛みを伴い見た目も痛々しいのですが、自身をさらけ出す姿がすごく幸せそうなんですよね。もうすぐ綺麗になれる、みたいな。私はそれに肯定的でありたくて。変わろうとするのって自分の決断とか挑戦だから、そこに対して誰かが何か言うかもしれないけど、負けないでほしいという気持ちがあります。私自身も歯列矯正してますしね。
── はじめて見たとき、この絵は米山さんしか描けないって思いました。ある種の緊張感がありながら、いろんな方への救いになっているというか。

タイトルを『S(HE)』としてます。これは(SHEの指すものが)男の子(HE)だったとして……みたいなニュアンスですね。でも性別は関係ないです。女の子であったとしても、もっと可愛いお人形さんみたいになりたいとか。そういう願望があって、痛いけどすごく嬉しいみたいな。この絵で描きたかったのはすごく簡単な感情です。

── この構図は本当にすごいと思ってて、商業の仕事だとまず見ないですよ。


── でもこの表情は悲壮感の漂う感じではないですよね。そしてこれもすごい構図。

そうですね。どちらかというと「ここから抜け出すんじゃー!」ってイメージで。この構図自体も面白いかなって思ってます。この連作に限らないのですが、私は一度描いた絵の構図をかぶらせたくない気持ちがあります。今回のSHEはあの手この手で見せたいっていうのがあったから顔を逆にして、影とかも印象的にして全ての絵の構図に差をつけてますね。これだと画面に対して上下逆さまで正面からスポットライトが当たっている、(構図)自身が作品になるような、舞台にも見えますね。




けっこう涙袋とか描くと可愛くなくなっちゃうんですけど、案外受け入れてもらえたかなと思ってます。
── 米山さんは冒頭でご紹介した「THE ONE」の前からとても上手でしたし注目されてらっしゃいましたが、なんというか独自の作家性が強くなってきたかなと。

アニメとイラスト、どちらも捨てない
── 作家さん本人から作品についてのコメントを聞けるのはとても貴重です。今回「立ち向かう」というテーマを掲げられていますが、米山さん自身の覚悟のようなもが強く反映されているかのように思います。

特にアニメーターという仕事をしていると、周りも男性が多くて、そこで甘く見られたくないと思ったんですよね。テレビでオンエアされるといろんな方が見るので、ネガティブなコメントを書かれることもあります。でも、そこで自分や相手に怒りをぶつけるんじゃなくて、やりたいことを堂々と主張できるようにしようって考えてます。絵もそういうスタンスで描かないと、自分自身に負けてしまう気がして。私は人一倍負けん気が強いのかなと思ってます。末っ子だからですかね。お姉ちゃんがけっこう習い事とかしてて、けっこう親とかにも褒められてて。

── 米山さんは「作画監督」という縁の下の力持ち的な役割も長かったので、特にご苦労なさった経験もあったかと思います。ただここ1年は同人誌でも精力的に展開してて、攻撃のフェーズに入った感じですよね。

── 逆に言えばそれくらい米山さんの中でアニメの存在は大きいのですよね。

渋谷の生命力から生まれたメインビジュアル3部作



これはカラスですね。彼らの呆然とした、というか憂いのある表情を絵を描きたくて。でも寂しい雰囲気が強すぎると描きたいテーマである「生命力」からぶれるので、二人にして絵としては若干にぎやかにしてます。この子たちの衣装もゴミなんですけど、思ったよりはスタイリッシュになっちゃいましたね。
── デザインに対してのポテンシャルが非常に高いですよね。この間、同人誌のデザインも全部自分でやってるって聞いてすごいびっくりしました。

── 米山さんがそういう思いで走っている姿は、ものすごくポジティブなメッセージになってます。その強さに憧れるというか、救われるというか。

── ありがとうございました!
米山舞初個展「SHE」
【開催情報】
・開催期間:12月6日(金)〜12月25日(水)12:00-19:00
・定休日:なし
・入場:無料
※混雑時は整理券対応をさせていただく可能性がございます。あらかじめご了承ください。【ギャラリー概要】
・名称:pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv
・所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F