良さに目覚める機会が多い「異形頭」/カレー沢薫のpixivタグ検隊

文/カレー沢 薫
今回の「pixivタグ検隊」のテーマは「異形頭」だ。
担当曰く、「メジャーどころ」らしいのだが、私は初めて聞く言葉である。
私は毎日ツイッターを68時間、pixivを32時間見ているが「推しカプ」で4時間「推しカプ R18」で28時間検索しているだけなので、案外普通のものしか見ていないことが判明した。
しかし、犯罪や他人に迷惑をかけていなければ、性癖に正常も異常もない。
性癖における「普通」というのは「わかりやすい」「理解できる人の数が多い」という、いわば「初心者向け」という意味である。
まず「異形頭」タグでイラスト検索したところ「6400件」以上ある。
「俺の推しカプタグの10倍あるじゃねえか」と驚いた人もいるかもしれないが、私も56倍あることに驚いた。
担当の「メジャーどころ」というのは嘘ではなかったようだ。難易度としては「黄バイエル」程度なのかもしれない。
では「異形頭」とは何かというと「異形な頭を持つ、人間の身体をしたキャラクター」のことである。
そう言われてもピンと来ないかもしれないが、一番有名なのは「NO MORE 映画泥棒」だろう。
「映画泥棒」とは、劇場で映画を見る際、本編の前に流される「映画の盗撮は止めよう」というCMのことである。
そのCMに「体はスーツ姿の人間の男だが頭はカメラ」というキャラクターが出てくる。おそらく彼が異形頭界のセンターだ。
この「映画泥棒」のタグも2500件以上あり、私の推しカプの21倍あって驚く。
このように、体が人間で頭が人外なのが「異形頭」だが、顔が動物になると「獣人」などの方にカテゴライズされがちなので、頭部は「カメラ」などの「無機物」が使われている場合が多い。
ちなみに「映画泥棒」のCMには、カメラ男の他にも、頭部が「パトライト」の男も出てくる。
「盗撮をしようとするカメラ男をパトライト男が捕まえる」というのが、映画泥棒のCMの内容だ。
もはや言わずともわかるだろうが、当然この二人のBLカップリングも存在する。
そもそも「不良」と「優等生」や、「ヤクザ」と「警官」という「敵対関係」は、BLのみならずカップリングとしては王道とも言える関係性である。
しかも映画泥棒キャラの中の人はプロのダンサーだったりするので、スタイル抜群で動きがキレキレなのだ。そんな2人が大画面で捕まったり、捕まえられたりしているのである。
それを見てピンとこないようなら、もはや「勘、ワルない?」と言われても仕方がないのかもしれない。
■「異形頭」により確立したキャラクター
他で有名な異形頭キャラと言えばサイレントヒルの「三角頭」、そして「Pヘッド」などが挙げられる。
「Pヘッド」とは何かというと、『アイドルマスター』の「プロデュ―サー」のことである。
『艦隊これくしょん』における「提督」、『刀剣乱舞』における「審神者」のように、存在はするが、ビジュアルは描かれていないキャラというのがたまにいる。
二次創作において、これらをどう表現するかは、かなり趣味の分かれるところである。
セリフだけで、全く姿を描かない場合もあれば、極力個性を出さないように姿は描くが顔がのっぺらぼうだったり、モブキャラのように「どこにでもいそうな顔」にしたりする場合もある。
逆に「オリジナルキャラクター」と言って良いほど個性的に描く人もいる。
「Pヘッド」はおそらく、個性を出さないために、人間の男の体に「P」の形の頭をのせた、プロデュ―サーの表現方法である。
しかしすでに「Pヘッド」だけで1600件あり、私の推しカプの14倍だ。
「白ハゲ」のように、個性を出さないようにした結果、それがキャラとして確立する、ということがたまにある。
■異形頭に男性(の身体)キャラが多い理由
「異形頭」には、オリジナル作品も多い。
頭が何かは、信号や標識、果物など千差万別だが、異形頭キャラと人間のカップリング作品も多く見られる。
表情で安易な喜怒哀楽を表せないので、表現力が問われ、さらにただ頭が異形なだけではなく「照れたときに信号が赤くなる」等、異形頭であることを生かした作品に人気があるようだ。
上手い人が描くと、顔が例え便器でも「何このイケメン……」という感想になるから不思議である。
特徴的なのは、異形頭タグで書かれているキャラは圧倒的に男性(の体)が多い、という点だ。
これは、異形頭は女の琴線に触れやすく、男性は顔が人間、もしくは表情がある生き物でないと萌えられない、という性差ではなく、目覚めるきっかけの有無の差ではないだろうか。
前述通り、男性の身体の異形頭には「映画泥棒」という有名どころがおり、さらにそれが、全国映画館でずっと放映されているのだ。そして映画泥棒には女の体の異形頭は出てこない。
それだけではなく「女の異形頭キャラと言えば?」で思いつく代表的キャラが、私の知る限りではいないのである。
つまり女の異形頭の良さに目覚めるきっかけが少ないのだ。
そろそろ映画泥棒に「女性キャラ」を出して見てはどうか。それでこのタグの分布がどう変わるか見てみたいものである。
