あの1時間に詰め込まれたテクニックを公開! 爽々さんのライブドローイング技術に迫る

インタビュー/虎硬
虎硬(@anofelus)と申します。先日、ピクシブで開催されたライブドローイングイベント「pixiv ONE」では実況を担当させてもらいました。
pixiv ONEは白紙の状態から1時間でイラストを描くというとんでもない企画なのですが、参加したイラストレーターの皆さんはどれも非常にクォリティの高い作品を仕上げてました。今回はpixiv ONEで素敵なイラストを披露してくれた作家の一人、爽々さんに当日の様子や普段の活動など、お話を伺っていきます。
普段のイラストは絶対に1時間では描きません

▲ 爽々さんが1時間で描いたイラスト
── pixiv ONEではお疲れ様でした!

お疲れ様でした。
── 1時間のドローイングということで見ている僕もハラハラしましたが、完成度がすさまじくてびっくりしました。

普段のイラストは絶対に1時間では描きませんからね。描き終わった後はくたくたでした。(笑)
── 普段はどれくらいの時間で描いてますか?

趣味のイラストなら自由ですが、仕事で描くなら最低15時間はかけたいですね。
── つまり、普段の10倍以上の速度だったのですね! どうやって描く時間を短縮したのでしょうか?

正直、最初にこのお話を聞いたときは参加するかはかなり迷いました。どう考えても無理だろうと。ただ、メールをいただいた翌日にCLIP STUDIO PAINTのiPad版がリリースされたんですよね。「これを使えば早く描けるかな?」と思い、参加とiPad Proの購入を決めました。pixiv ONEを機に絵を早く描く練習をはじめてかなり制作速度は上がったと思います。
── CLIP STUDIO PAINTのタイミングが神がかってましたね! 爽々さんのpixivFANBOXを拝読したのですが、手順が細かく説明されててとても興味深かったです。pixiv ONEに向けての対策みたいなものも書かれてますよね?

爽々さんのFANBOXより。
イラスト制作の解説や普段の練習方法などを知ることができる

ライブドローイングは初めてのことだったのでツールはもちろん、手法もかなり見直してます。色彩や仕上げはもちろん、デッサンやクロッキーも勉強しました。
── 具体的にどういった勉強をしたのでしょうか?

ポーズストックの制作ですね。写真の模写ではなく、オリジナルのポーズをいちから考えて人物の素体として保存しておきます。制作時間は一体あたり10分から20分くらいですね。
── ひたすら人体を描いていくのですね。

はい。2ヶ月ぐらいストックを貯めていて現在50体のポーズがあります。参考にしている写真はありますが、模写ではないのでイラストの素材としては重宝してます。
── 自分で描いた素材なら自由に使えますからね。

▲ 自身で描いたポーズ集の一部

素材としての意味もありますが、作画のウォーミングアップという役割も大きいです。定期的に人体を描く習慣は良い訓練になります。
ドローイングのポイント
── ここからはpixivONEの動画を実際に見ながら爽々さんから制作のポイントなどを解説していただきます。


構図は見返りですね。私が得意である後ろから見たようなポーズを選びました。画面に対して人物を小さめに描いているのは線を引くストロークの関係です。私は腕ではなくて手首で線を引くタイプなのであまり長い線にせず、まずは小さく描いてから拡大や回転を使って構図を整えていきます。
── ラフから線画へ入るタイミングが非常に早かったですね。

▲ 顔まわりの線画を進めている様子

最終的な絵のイメージは決めていたので、このあたりの作業は迷いがないです。時間配分も事前に計算してました。とはいえ、下書きからペン入れは地味な作業ではあるのであまり見せ場ではないですね。一緒に描いていたイリヤさんが最初にすごいことをやりそうなので、自分は後半に山場を持って行こうと考えてました。
── 確かにイリヤさんは最初から下書きなしですごい速度で描いていてびっくりしましたね。とはいえ爽々さんの線も少しざらつきのあるペンで、瞳をとても綺麗に描かれて感動しました。

ありがとうございます。線画は「Gペン」と言う少しクセのあるブラシを使っています。普段は何の変哲もないブラシを使っています。

── 20分ほどで線画が終わり、髪の色塗りに入りましたね。

髪は線画の通りに塗らず、特に毛先はアドリブをきかせています。


▲ テクスチャを入れる前と、入れている最中の画面。質感が大きく変わった
── 45分頃からテクスチャが入り、全体のイメージが一気に進みました。

ベースの色を塗っている段階では全体的な色の構成や統一感はあまり細かく考えていません。ある程度塗れた時点でグラデーションマップをかけてさらに全体の色を整えます。個別の色を細かく調整するよりも全体のイメージを一気にまとめて変化させます。
── 最後まで気づかなかったのですが、「富士山」と「初日の出」がモデルなんですね!

序盤で気づいてる人もいたみたいですが「たぶんわからないかなー」と思って右下にサインで「富士ちゃん」と入れましたね(笑)。盛り上がってくれてたようなので良かったです。事前に「新年」というテーマをいただき、いくつか考える中で浮かんだものですが普段の絵柄にもマッチしていい感じにできたかな、と思ってます。
── 素晴らしいパフォーマンスでした!
モノクロからカラーへの転身
── ここからは、爽々さんのプロフィールなどを掘り下げていこうと思います。普段されているお仕事を教えてください。

メインで描いているのは、表紙や挿絵などの書籍関係ですね。時々、ゲームのキャラクターデザインも担当してます。
── 現在はフリーランスだと思うのですが、イラストはいつ頃から描き始めましたか?

爽:大学1年生の冬ですね。ニコニコ動画で猫将軍先生の「描いてみた」動画を見て、自分も描いてみようと思いました。その時は家具やアクセサリーなど静物画を中心に描きましたが、その後に東方Projectにハマって人物を練習しました。人物は漫画家の大暮維人先生の絵を研究しましたね。
── それまではイラストは描いてなかったんですか?

はい。もちろん学校の授業で少しは描いてたかもしれませんが、趣味と呼べるものではないです。熱中していたことといえば中学校と高校に所属していた吹奏楽部ですね。毎日かなりハードな練習をしていたと思います。
── そういった音楽の経験とかってイラストに生きていたりしますか?

あまりないかなあと。楽器を描くときに変な間違いをしないくらいでしょうか。そもそも楽器を描く機会も滅多にないですが。
── イラストをはじめた頃はたくさん描いていたのでしょうか?

アルバイトと学校に行く以外、ほとんどの時間をイラストに使ってましたね。当時は今のようなSNSも黎明期なので掲示板に投稿してました。いわゆる「お絵かきBBS」ですね。アップローダーを使わずに付属ツールである「しぃペインター」を使っていました。pixivに1番最初に投稿しているイラストも、しぃペインターを使ってますよ。
── pixivを始めたきっかけはなんですか?

その時に参加していたお絵かきBBSの人達がpixivを使い始めたので、その流れで私も始めました。pixivには250枚以上のイラストを投稿していますが、大半は大学の時に描いたものです。
── すごい枚数ですね! でも制作時間の総量は最近の方が多いですよね。

今はフリーランスなので1日平均8時間位はイラストを描いてますね。
── 爽々さんは2016年からフリーランスになったと伺いました。大学卒業後は絵と関係無い仕事をしてたのですよね。退社後に生活は変わりましたか?

そうですね。3年半ほど会社員をしてました。就職活動では単純に私が知らなかっただけなのですが、イラストの会社で働くというイメージがあまりわかずに、絵と関係ない職種に就きました。会社員時代と比べると、今の働き方はかなり自由ですね。とはいえ良いことばかりではなく、責任の大きさが全く違うので仕事への緊張感は増えたかもしれません。会社員の頃は方針の決定などは上司にお任せしてましたが、今はクライアントの要件を咀嚼(そしゃく)しつつ、デザインや方向性なども自分が決めないといけません。
── フリーランスになったきっかけはありますか?

少しネガティブな理由にはなりますが、出張や残業が増えて絵を描く時間がほとんどとれなくなったからですね。会社を辞めた時に退職金を頂いたので、半年くらい仕事のことを特に気にせず自由に絵を描いてました。そこからだんだんと絵の仕事を頂くようになり、2017年頭頃からフリーランスでしばらく行こうと決めた感じです。
── 2016年以降はカラーイラストが増えましたね。

やはりお仕事を考えるとカラーイラストの方がニーズがあります。ネットに公開する絵も意識して色付きを多く描こうと考えてました。それまではモノトーンに寄った絵を描いていたのですが、フリーランスになったのを良いタイミングだと思い、練習しました。
── その時はどんな練習しましたか?

pixivやPinterest、Twitterなどを見てイラストを探して人気の作品を参考にしました。特に中国の厚塗り系クリエーターは彩りが非常に上手な人が多く、中でも零さんを特に意識して塗り方や全体のトーン設計を考えてました。
── 普段使ってるツールはpixiv ONEでも使用していたCLIP STUDIO PAINTですか?

しばらくSAIを使ってましたが、ここ2年ぐらいはPC版CLIP STUDIO PAINTですね。ごく最近は線画の作業をiPadで済ませるようになりました。描き味がスムーズで制作時間が早くなりましたね。持ち運びも楽なので、pixiv ONEでも自宅の環境に近い状態で描けるのは良かったです。
── pixiv ONEでは他に3名のイラストレーターさんが絵を描いてますが、爽々さんからみて注目した作家さんや気になった技術はありましたか?

皆様、全員すごすぎるのですが……やはりAnmiさんでしょうか。
── それはどういう理由ですか?

まず、色では緑や黄色を綺麗に使われている点ですね。私はああいった色が苦手なので参考になります。あと、線画がとても上手です。一見ラフっぽく、ざっくり描いているにも関わらず、遠目で見たときの印象が非常に良い。私も最初はこういう路線で行こうかなと思ったのですが、難度が高そうだったので現状のやり方で進めることにしました。
── Anmiさんはぼかしツールやブラシなど技法に特徴のあるクリエイターですね。

今は「厚塗り」や「アニメ塗り」のような技術がどんどん融合して表現ジャンルは曖昧になっていると思うのですが、常に私も新しい表現を追いかけていきたいです。
イラストは「どや感」が大切
── 表現の話でいくと爽々さんのイラストは質感がすごいですね。どうやって描いてるのか謎な感じはあります。質感にこだわる理由や描く上でのポイントってありますか?

質感にこだわる理由は「どや感」です!
── 「どや感」!

これだけリアルにしてやったとか、触れそうとか……要するに「どうだ、すごいだろう」みたいな気持ちですね。 見る人は「綺麗」とか「かっこいい」みたいな気持ちになることはあると思うのですが、「すごい」っていう感覚もあると思うんですよ。そういった技術的な凄さで圧倒的な表現をしたいという思いはあります。もちろん最終的には全体のイメージが大切なのですが。
── たしかに。むしろ普段絵を見ない人ほど、作画技術に惹かれる面もあるかもしれませんね。

わりと普遍的な感覚かなあと思ってます
── 技術的な話だと爽々さんのこちらのイラスト、髪の躍動感が本当にすごいなぁと思ってました! 髪に対してこだわってらっしゃいますよね。

モノクロでの制作を何年もやっていたので、色の情報が減る分、絵として映えさせるには描き込みを増やす必要があります。特に髪の毛は人物全体の印象を決めるので以前からこだわって制作している部分ですね。
── この絵は傑作だと思います。

私の中でもよく描けたと思っています。これは他の部分があまり入っていないので髪の毛をかなり頑張らないといけない構図ですね。
── 色使いもおしゃれですね。

私は無意識に描くとどうしても彩度をあげてしまいがちなので、なるべくくすんだ感じでシックに仕上げるように意識しています。
── 先程「黄色は苦手」というお話が出ましたが、例えばアニメ塗りだと黄色はかなり使いやすいですが、爽々さんみたいな厚塗りだと黄色は難度が上がるなって僕は思いました。

確かに黄色は影の色を描くときに、どういう風に濁らせればいいか迷う時があるんですよね。表現における色の得意不得意はありますね。
── 爽々さんはイラストのテーマも、かなりのこだわりを持って描かれていると思います。その辺も少し伺わせてください。

絵のテーマはかなり考えています。漠然と手を動かすのではなく、テーマが決まってから制作に入ります。なるべくポップにわかりやすく伝えることを心がけてますね。仕事においても、いただいたものから何かしら良いネタが出るように粘ります。
── 連作のような絵も面白いですね。ブラックホールの絵とか。

ありがとうございます。
── 5月にはご自身初となる画集もリリースされますよね。

印刷にもかなりこだわっていただいたので、とても良い仕上がりになってます。見開きはかなり迫力がありますね。
── とても楽しみです。紙だと見え方が変わりますからね。

私の場合は同人活動などもしていないので、こうしてまとめていただけると非常に嬉しいですね。
── ネットでのイラスト活動にはまっている趣味などはありますか?

特別な趣味はないです。しいていえばFGO(Fate/Grand Order)はやってますけど。基本的にTwitterやYouTube見て、アニメを見て寝る……そんな生活ですね。最近では海外ドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』を観てます。映像表現が素晴らしく、作品にも影響を受けてますね。
── 静止画ではなく、実写の映像から得られるインスピレーションは違うのでしょうか。

写真などを参考に描くことは今後も多いとは思いますが、映像だと連続的なイメージなので情報量が違います。同じシーンでも時間が流れるの光や影の雰囲気も変わりますからね。気に入った場面をスクリーンショットで撮影して、資料にしてます。
── なるほど。最後の質問ですが、ペンネームの由来はなんですか?

印象良く見えるかなあと。「爽やか」って感じで好青年に絶対見られるじゃないですか。
── 間違いないですね!
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※第1回のイベント(2018年1月5〜6日)は終了しました。
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