3DCGを「日本のアニメ」っぽく。セルルックで業界の常識を変えるサンジゲンへ!#突撃会社訪問
取材・文 / 阿部栞

3DCGアニメの技術の普及で、日本のアニメ業界が抱える問題が解決される……かも?
「3DCGのアニメ」といえば、どんな印象がありますか?
いわゆる「日本のアニメ」(=セルアニメ)に長く親しんできた日本人にとっては、3DCGのアニメといえばピクサー映画などの海外アニメーション、ロボットアニメの戦闘シーンやアイドルアニメの変身シーンで一部だけ使われているもの、というイメージを持っている人がまだ多いと思います。
恥ずかしながら、筆者もそのうちの一人で、最近の3DCGアニメーションの進化に詳しくありませんでした。「プリキュア」シリーズのエンディングテーマのダンスシーンを観ながら「最近のCGは滑らかに動いててすごいな〜」と思う程度。
日本のセルアニメ──つまり何枚も原画を手書きし、パラパラ漫画のように動画にすることで作られる2Dアニメでは、キャラクターの顔や体は手書きで要所でCGを取り入れることが主流でした。しかし最近はキャラクターもCGで作り、動かし、且つその「3Dっぽさ」を抑えてあたかも手描きのように見せる3DCGアニメが増えているそうです。例をあげると、今年ヒットした『けものフレンズ』『正解するカド』が記憶に新しいかもしれません。
今回は、前回の「突撃!会社訪問」でお話を伺ったTRIGGERさんからのご指名で、フル3DCGによるセル画のような表現で一躍話題になった『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』を制作し、3DCGアニメで業界で圧倒的な地位を築きあげたサンジゲンさんに遊びに行き、お話を伺いました!

今の3Dってなんであんなに違和感ないの?

▲3DCG制作のアニメーターから、現在スーパーバイザーとして社内で作り方そのものをコンサルティングしているというサンジゲン・植高さんにお話を伺いました。現在担当している作品は12月1日公開予定のXFLAGオリジナルアニメ『いたずら魔女と眠らない街』。
▲ XFLAGオリジナルアニメ「いたずら魔女と眠らない街」
植高さん:
ありがとうございます。それは、「3DCGでどうすれば日本のセルアニメっぽく」なるのかを追求する「セルシェーデイング」という技術が叶えていることですね。

©XFLAG
形をつくるモデリングの段階ではデザイン画に合わせて精密に整合性をとっていきます。キャラクターの質感・塗り方・パーツの配置などいろいろとあるんですが、一番大きいのは影の付け方です。アニメのセル画で行われる影の塗り分けのように、パキッとした陰影をつけることで手描きっぽく見せています。
でも、パーツの配置と言いましたがアニメっぽさを追求するためにアニメーションの作業では精密に作ったモデルの整合性を壊す勇気も大事です。
植高:
ええと、例えばこの表情(←画像左)はいかにもアニメらしい表情ですよね。でもこの顔、パーツ配置の整合性は全くないんです。この表情を正面から見ると、こんな崩れた顔(画像右→)になっちゃうんです。

© Quadrangle / BBKBRNK Partners
植高さん:
はい、こんなに口が開く人って世の中にはいないですよね(笑)。3GCDの一つの武器は、正面からでも横からでも整合性のあるモデルを動かせることだけど、それだと時には手描きのセルアニメらしい非現実的ではあるが魅力のある表情を表現できない。だから、あえてその整合性という武器を捨てることもあります。それがセルアニメを追求するという行為かなと。
実写の撮影みたい? 3DCGアニメができるまで
はい。大体の工程はこの図(↓)のような流れで進んでいきます。カメラテストに映像コンテなど、工程としては実写撮影に近いかもしれないですね。


©XFLAG

植高さん:
だいたい合ってます!(笑)モデルを作ったあと「リギング」と呼ばれる、コンピューターにこれは女の子で関節はどこで、お洋服のここには揺れる飾りがついているよ、と設定してあげる作業を行います。それが完了した状態でアニメーターに渡るんですが、その後はいわゆるMMDでキャラクターのモデルを動かす作業と同じです。

©XFLAG
▲(左)3Dモデル。この時点ではまだ空の人形状態。(右)リギング中の画面。身体の関節から服についている飾りまであらゆる指定をしていきます。

美少女を組み合わせて他の美少女を作る?
植高さん:
美少女顔って言ってしまえばフェティズムの追求なのでキリがないんですけど(笑)。コツを掴んだというか、経験が蓄積されたことが大きいですね。
3DCGはデータなので、蓄積された過去の財産を使って「可愛い日本の美少女アニメ顔」が再現できているクオリティの高いモデルを効率よく作成できるようになったんです。
植高さん:
試行錯誤して完成した成功系を少しずつ合わせて新しいモデルを作っていくイメージです。
アニメってなんだかんだ「カワイイ」の鉄板が生まれていますよね。なので、新しく女の子のモデルを作るときも、1から形づくるのではなく、髪の毛も目もすでに過去に作成したものから近いものを選んでカスタマイズしていくんです。
植高さん:
そうですね。この過去の財産の「再利用」は2Dアニメだとなかなかできないことだと思います。手描き原画に詰まったノウハウは描いた人のみに依存し、他人とは共有できないので。一方、3DCGは作れば作るほど経験も技術もデータとして溜まっていく。
植高さん:
あ、美少女のパーツ合成の実例がありました。例えば、この「ブブキ・ブランキ」の万流礼央子というキャラクターなんですけど、顔は過去に作った「ウルトラスーパーシスターズ」のスピカをベースに作ります。二人ともキャラクターデザイナーはコザキユースケさんが担当されているので、この子をベースにモデルを作って、キャラクターデザインに合わせて調整していきます。

©ULTRA SUPER PICTURES
©GOOD SMILE COMPANY
植高さん:
服に関しても過去に作成したモデルのセーラー服をベースにして、あとはスカートの長さや細かいデザインを調整していくとずいぶん省力化になるんです。
3DCGの普及で、日本のアニメ業界が抱える問題を解決できる!?
植高さん:
うーん、基本的に2Dアニメは制作会社のメンバーとだけではなく社外の作画スタッフに仕事をお願いしながらアニメを制作していくのですが、一方で3DCGは全ての作業がインハウス(=内製)で完結するということが違いとして大きいですね。植高さん:
そうです。それから、前の話でも上がったように過去のアセット……つまり鳥とか戦車とかタイヤとか、すでに一度作ってる過去の財産が使い回せることがやっぱり大きいです。
『ガルパン』の戦車とかはいい例ですね。大量の戦車が動くシーンを、一人で原画を描く作業は相当辛いですけど3DCGなら一度モデルを作ってしまえばそのモデルを共有してみんなで動かせる。

── 人員コストもかなり削減されそうですね。
植高さん:
そうなんです! 作ってる人数も、作画スタッフ100人で作るTVアニメも、CGなら20人で終わるくらいの目安です。
植高さん:
人員コストが少ないとお渡しできるお給料も差が出てきます。3DCGアニメだと一人の人間が受け持つ業務の幅が広いのと、外部に仕事を振らない分関わる人(=お給料をもらう人が)少ないので、単純に一人当たりの稼ぎ高が多い!
── おおお! よくアニメーターの低賃金労働が問題として話題にあがりますが、3DCGアニメならその問題を解決できる可能性があるんですね。
植高さん:
そうですね。それから、生活するに十分なお給料を払えることは、アニメ業界全体の水準を守るという意味でも大事だと思っています。
植高さん:
CGは他の業界でも使える技術ですが、仮に同じ技術を使ってゲーム業界の方が稼げるならみんなそっちに行っちゃうのは当たり前ですよね。そうするとどんどんアニメ業界から優秀な人材がいなくなってしまい、アニメ業界の技術水準が下がってしまう。だから、技術と人材を流出させないために安定したお給料を支払える状態を維持することが会社、ないしは業界を守ることに繋がると思います。

『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』で超えたCGの「不気味の谷」

植高さん:
そうですね、転換期となった作品としては『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』ですね。
植高さん:
はい。3DCGのクオリティとしても作品としても納得いくものを作れた自信がありましたし、生のお客さんの反応も明確に変わったのを実感しました。Twitterの反応が「3Dやばい、不自然」から作品に対する感想になったなあと(笑)。そこでやっと、お客さんに作品を通して表現したいことを届けられたと肌で感じました。
それから、3DCGでキャラクターを作ることならではの体験ができたのも自分にとって大きかったです。
『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』のヒロイン・イオナはお話が進むにつれて無機質なロボットのような人格からどんどん人間性を獲得していくという設定なんですが、イオナが人間性を獲得するのと一緒に作画もどんどん自然になっていったんです。それは作品が進むにつれてイオナ作画のアセットが増えてクオリティが高くなったからなんですが、2Dアニメで話数が進むにつれて作画クオリティが上がることなんて基本的にはありませんから、これは3DCGアニメならではの出来事だったなと。

©Ark Performance/少年画報社・アルペジオパートナーズ
植高さん:
これからもお客さんに喜んでいただける作品を作り続けるのはもちろん、制作面ではサテライトオフィスをどんどん拡充していきたいと思っています。アニメの制作会社=東京という常識を破って、地方でもアニメの制作ができる環境を拡張していきます。

新しいアニメ制作の形が見える、未来と希望に溢れたオフィスでした!

▲東京スタジオには130名超のスタッフが在籍していて、日々最新の作り方に変わっていくんだとか。
作れば作るほど技術とノウハウが積み上がり、3DCG全体のクオリティが上がっていくと語ってくれた植高さん。日本のセルアニメという独自のカルチャーを残しつつ、効率化できるところは効率化していくことで制作側にとっても視聴者側にとってももっと幸せな世界に近づいているように感じました。
絵コンテ:映像の設計図。
作画打ち:作画打ち合わせのこと。
レイアウト:キャラクターの演技・要素の位置関係・背景・演出などを決める設計図を作ること。実写でいうカメラテストに近い。アニマティクス:アニメーションを決め込んでいく作業。。
セルルック:ポリゴン状態のモデルからセルアニメ調の見た目にシェーディングすること。