すごいコスプレの裏側を大公開!大型武器コスプレイヤー・ギャクヨガさんインタビュー

取材・編集/佐久間仁美
コミケなどのイベントやSNSで見かける、なんだか超すごいコスプレ。迫力がある大型武器を見て、驚いたことがある人も多いのではないでしょうか。今回は、大型武器や鎧をつくるコスプレイヤーさんにインタビュー! すごいコスプレの裏側を覗き見しちゃいましょう!

その作例の数はなんと400種類以上! コスプレ業界では知らない人はいない、と言っても過言ではない「造形のプロ」のテクニックに迫ります。
造形テクニックの原点は「プラモデル」の技術から
ー本日はよろしくお願いします。ギャクヨガさんが、造形を始めたきっかけを教えてください。
映画『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』に登場する、レゴラスのコスプレをしようと思ったのがきっかけです。
作中の最終決戦のシーンで着用していた、武器をたくさん装備している衣装が作りたくて造形を始めました。ちなみにこれが初めてのコスプレです。
インターネットの掲示板と、プラモデルの知識ですね。
もともと、高校生の時にプラモデルを作るのが好きだったので、その時のテクニックを、コスプレへ強引に応用しながら作りました。
ーなるほど、プラモデルはまさに平面から立体を作る作業ですもんね。
はい、また色塗りの知識も使えます。
あとは東急ハンズに実際に足を運んで、使えそうなものを手当たり次第探しました。

▲ プラモデルでも使用されるグッズ達は、ギャクヨガさんの造形の原点。
ー今まで作ったコスプレの中で、1番思い入れのある武器・造形物はありますか?
『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』に登場する「ムジュラの仮面」ですね。

▲ ギャクヨガさん作「ムジュラの仮面」。かなりの迫力です。
ゼルダシリーズが、私の大好きなゲームだったこともありますし、また自分で言うのもなんですが、色と形をかなり再現できたんじゃないかな、と思います。
今まで作った他の造形物は、倉庫にまとめて入れているんですが、ムジュラの仮面だけは、今でも自分の部屋に守り神のように飾ってあります。
ーたしかに、守り神みたいですね……! 形はもちろん、色の塗り方がリアルですね。
実際に、ゲーム画面でキャラを見ながら作りました。
特にこだわったのは目のグラデーションですね。エアブラシを何本も使い分けて目の輪郭をぼかすなど、間近で見ないとわからないテクニックを、ふんだんに盛り込んであります。
小さい造形の割には、塗り工程だけで15時間くらいかけましたね。
造形が生み出される現場を公開!
ーこのような造形物は、どこで作ってるんですか?

▲ その名も「GYAKUYOGA造形工房」
もともと12〜13畳ほどのガラクタ置き場だったスペースを、整理して作りました。長い時だと、この工房で1日10時間くらい作業することもあります。

ー工房を作ったきっかけを教えてください。
造形を本職にしはじめた時ですね。元々システムエンジニアだったんですが、退職して実家に帰ってきた時に思い立ちました。
当初は作業するスペースがなくて、ガレージに机を置いて造形物を作ってたんですが、寒いし置き場もなくて(笑)。
よくエアブラシやスプレーを使うので、換気のために換気扇を自分で増設したり、工業用の扇風機を置いたりしてます。
造形は意外なものでできている⁉
ー防具、武器はどんな素材でできているんですか?
私のコスプレ造形は、お風呂のマットのような柔らかい「工作用ボード素材」で作られています。身近な所では100円ショップでも販売されていますが、私はライオンボード(※)という物をよく使っています。

この素材は高熱を与えると変形するので、炙って丸いフォルムも作れますし、切って接着剤で貼り合わせれば、尖ったフォルムを作ることもできます。とても汎用性が高い素材です。

▲ 『刀剣乱舞』鳴狐のお面の制作風景。熱すれば、こんな丸みも作れます。
ーこの素材を使うと、防具や武器は、それぞれどれぐらいの重さになるんですか?
実際の金属などと比べると、かなり軽くなります。例えば、刀なら320g(缶ジュース1本分)程度ですね。
また、コスプレの鎧は2〜3kg、重いものでも5kgぐらいです。本物の鎧なら、20〜30kgぐらいありますもんね。重そうに見えるコスプレでも、相当軽くできています。

▲ まさかお風呂マットのような素材でできているとは思えないほど、重厚感はバッチリ!
繊細な模様は、100均グッズでも作れる
定番なのは、グルーガンで描く方法ですね。グルーガンとは、手芸などでよく使われる、樹脂を溶かして打ち出す工具です。100円ショップでも販売されています。

ー今まで制作した衣装や造形で、1番複雑な模様だったのはどの作品でしょうか?
▲ 注意:記事中の動画は全て音が出ますのでご注意ください。
腰布の模様が、大量のパターンの繰り返しでして。
型紙に下絵を描いて、チャコペーパーでその絵を写して、そのあとにグルーガンでなぞりながら描いて、グルーガンが固まったら、その上に塗装をして……と、同じ模様を何度も繰り返して描きました。
ー気が遠くなるような作業ですね……。
そうですね、丸1日かけて模様を描いてました。しんどかったです。
型紙の作り方は意外と大胆
私の場合は、まず画用紙やセロテープ、ガムテープなどの身近な素材を使って、3次元の形をひとまず雑に作ってから、精度をあげる形ですね。
ー動画を見ると、迷いなくハサミをザクザクと入れていて驚きました! かなりのスピードで制作されるんですね。
そうですね。私はもう身体が慣れちゃったので、ほぼ無意識で作業してます。
作り方のサイトを見た人から、「ハサミを、どこに入れたら良いかわからない」という質問をよくされるんですが、仮にわからなくても、考えてる暇があったら、とりあえず切ってみる! とにかく手を動かす! 失敗したらテープで貼って戻せばいいだけです。
複雑な造形も、簡単な立体をいくつか組み合わせているだけなので、同じ要領でやればできますよ。
造形のプロでも悩んだ、作るのが大変な造形は?

ーひぇ〜、300時間ですか! どこが1番大変だったんですか?
背中の手裏剣ですね。ライオンボードだけで作ると、刃が素材の重みでヘニャッとしてしまうので、刃の中に木の芯が入っているんです。その構造を作るのに苦労しました。
─制作工程があまりに複雑なので、どれだけ大変か、読者の方へ3枚で表現するならば
①これが
(型紙の状態)

②こうなって
(=切り出したライオンボードと木の芯を組み合わせて形を作り、マジックテープで背中に固定できる様にして)

③こうじゃ!!!!!
(=塗装して完成して写真を撮るとこうなります)

ーと、これではわからないですよね。ごめんなさい、複雑すぎて3枚で説明しきれませんでした……。
いえいえ、造形に慣れた方でも難しい制作なので(笑)。
どんな風に出来るのか、詳しく見たい方は、こちらの動画をご覧頂くのが良いと思います。
▲「 折紙サイクロン」制作の一部始終はこちら。見ごたえ抜群です。
ーでは、1番設計に苦労した造形は何ですか?

この武器は、ゲーム内で剣と盾が合体して「アックスモード」と呼ばれる斧になるんです。その変形のギミックを再現するために、強度やガタツキのない構造をつくるのに苦労しました。

▲ これが「アックスモード」。斧のように上下に振ってもビクともしません。
ー見た目だけでなく、ギミックまでとはすごいですね……まさに2.5次元です!
制作にあたって、まずプロトタイプ(試作品)を作りました。最初は剣だけ作って、想定される盾の重みより重い材料をくっつけてみて、剣で支えられるかを手当たり次第試しました。制作時間はざっと100時間ですね。
ーこのような大型の造形物はどうやってイベント会場へ運ぶのでしょうか?
私は車ですね。大きな武器は分解して運搬できるように、型紙をつくる前から考えて設計しています。作ってから分解方法を考えても、既に手遅れですしね(笑)。


▲ 『モンスターハンター』のユクモノ大剣は、強度や素材構成等を考慮した上で無理なく分解できる構造になっています。
ー鎧はどのようにして着ているんですか?
鎧を着る様子はこんな感じです。
▲ コスプレイベントの裏側では、こんな光景が繰り広げられているんですね。更衣室を覗き見した気分になる、貴重な映像です。
サイトや動画をきっかけに、広がる創作の輪
ーギャクヨガさんのサイトには、たくさんの作品や型紙が掲載されています。公開されている型紙を元に作ったり、アレンジしたりする人も多いようですね。
はい。私のサイトはコスプレ造形のサイトですが、作るものはコスプレにこだわる必要はないと思います。趣味で武器だけ作って楽しんでもらってもいいですね!
最近では劇団の小道具や、ローカルヒーローの衣装に使ってくれた例もありました。
自分のサイトが、多岐にわたって活用してもらえるのは面白いし、嬉しいです。私のサイトや動画が、いろんな方の物づくりへの第一歩を踏み込む手助けになれば、本望です!

▲「愛娘フィリア&ティアラ」夕庵さんが、ギャクヨガさんが公開している『Fate』のセイバーの鎧の型紙を使って、ドールの衣装に応用した例。創作の輪が多方面へと広がっています。
ーギャクヨガさんが思う、造形の楽しさとは何でしょうか。
作ったものを多くの方に見てもらえて、反響を頂けることですね。
最近ではYouTubeでも積極的に活動しており、英語バージョンの動画もアップしているので、海外の方からも反響が来るようになりました。
私は、昔から「ものづくり」が根付いている日本人であることに誇りを持って、さまざまな活動をしています。「日本のコスプレイヤーすげぇ!」と、世界中の人に言わせたいと思っています。
コスプレをしない方でも、ギャクヨガさんのサイトや動画を覗いてみれば、造形への熱い気持ちを感じられるかもしれません。
コミケなどのイベントで、大型の武器や装備を見かけた時は、こだわりのコスプレをじっくり見てみると、より一層楽しめるかもしれませんね。

- ギャクヨガ
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大型武器、造形を得意とするコスプレイヤー。
コスプレ武器や防具の作り方を紹介するサイト『コスプレ造形の作り方 ギャクヨガ』や、YouTubeチャンネル『GyakuYoga[ギャクヨガ]』で活躍中。