「感想を送って筆を折られるのがこわい」けれど圧倒的に多い死因は「感想がもらえない」なので…/カレー沢薫の創作相談
感想を送って筆を折られるのがこわい
まず「まほうのiらんど」発動により懐かしさで相手を殺す作戦かもしれませんが、私はそれよりも古い「個人HP」の保持者なのでそのトラップカードは無効です。
そして現在では「ツイッター」は「X」になっているので、つくづく我々は乱世に生きているなと感じます。
私がその日本最古の建造物を建ててネット創作者デビューしたのは高校生の時でした。
主に二次創作をやっていたのですが「別館」と称してオリジナルの小説も公開しており、この別館という響きだけで強くなれた気がして、ささやかな喜びをつぶれるほど抱きしめたものです。
そしてその作品をいたく気に入ってくれる人が現れたのです。
高校生の書くオリジナル創作を気に入ってくれる人なんて「貴様が神か?」以外の何者でもなく、執拗に絡み、構想を聞かせ、私のキャラをその人が描いてくれると言えばさりげなくギンギラギンに催促し、サイトを更新するたびにメールでお知らせするという人力プッシュ通知と化し、最終的に「その人が読んで感想をくれるまで寝ない」までになりました。
相手が一回り近くも年上だったので、迷惑防止条例に訴えられることもなく優しく対応してもらったのですが、今思えば恐怖を感じるレベルでウザかったと思います。
このように「自分や自分の作品に好意を示してくれた人に過剰に懐いてしまう」という経験は若かりし頃の過ちとして誰しもあることです。
むしろ自己肯定感が低すぎると他人の好意に対し瞬時に「絵画」「宗教」「ネットワークビジネス」などのワードが浮かぶようになりますし、さらに極まると「どうせ離れていくくせに最初から優しくしないでほしい」と「初手ギレ」をかますようになるので、他人の好意を素直に受けいれてはしゃぎすぎてしまうというのは逆に健全と言って良いでしょう。
それに創作者が筆を折る理由として「様子のおかしい奴に粘着された」というのは確かにあるのですが、それより圧倒的に多い死因は「感想がもらえない」なのです。
あなたは過去に抱きしめるつもりで人間を粉々にしてしまう悲しきモンスターのように創作者を撫で殺したことがあったかもしれませんが、あなたの熱き感想のおかげで命が助かった創作者も少なからずいたのではないかと思われます。
若気の至りに萎縮して、感想を控えることがむしろ推し創作者の筆を折ってしまう結果になりかねないので、やはり「おもしろい」と思ったら何らかの手段でお伝えした方が相手のためなのです。
応援や感想を相手に直接伝えない
しかし好意が重すぎて疲れや恐怖を感じさせることも実際あるので、同じ轍を踏まないように相手の負担にならない応援を心がけなければいけません。
まず旧姓ツイッターこと現X自体が「自分をコミュニケーションツールだと勘違いしている独り言ツール」というサイコホラーシステムなので、掲示板やミクシィのような感覚でやりとりしようとするとそれだけで人によっては「こいつグイグイくるな」と思われる恐れがあります。
そもそも「挨拶は人間関係の基本」「コンドームをつけないのは挨拶ができないのと同じ」と言われる社会において、Xは「生中の方がスタンダード」という無法地帯です。「フォローさせてもらいました」や「フォロバありがとうございます」「ファイナルファンタジー外から失礼します」など、挨拶してくる方が珍しく、それだけで「変わっている」と最悪第一印象で「面倒くさそうな奴だ」と思われてしまう恐れがあります。
よって、控えめにやりたいと思うなら、まず応援や感想を「相手に直接お伝えしようとしない」ことをお勧めします。
ツイッターで感想を伝えようとした場合、その方法は「ツイート」「引用リツイート」「リプライ」「DM」があります。
「ツイート」は相手に向かってではなく「今こいた屁が臭かった」と虚空につぶやくのと同様に、純粋なひとりごととして感想をつぶやくやり方です。
それだと相手に届かないではないか、と思うかもしれませんが、感想に対して貪欲な作者であれば勝手にエゴサで見つけて勝手に励まされます。
感想の中に作品名や作者名を入れて見つかりやすいようにする、相手の作品をリツイートしてすぐ感想をつぶやくなど、見つけやすくするなどすればなお良しです。
この方法であれば、直接言われたわけではないので相手にとっても負担が少なく、頻繁にエゴサに引っかかれば「いつも陰ながら応援してくれている人だ」と思ってもらえます。
万が一相手の意にそぐわない感想を言ってしまっていても「こっちが勝手に探した一個人の感想に怒る方がおかしい」と思ってもらえます。
思ってもらった後に「そっとミュート」は避けられないかもしれませんが、それはそれで「今後起こる大事故」を未然に防げたともいえます。
もう一歩踏み込んで伝えるには
しかし、相手がエゴサ趣味のない健全な魂を持っていた場合、せっかくの応援が本当に虚空に消えるだけになってしまいます。
その場合はもう一歩踏み込んで「引用リツイート」を使って感想を送ってみてはどうでしょうか。
引用リプライは、相手の「作品アップしました」等のつぶやきに対し、自分の感想を乗せてつぶやく方法です。
この場合は相手に通知が行くので高確率で読んでもらえますが、個人的には引用リプライはまだ「ひとりごと」の範疇だと思っています。
言わば壁に向かってしゃべっている相手に対し、自分も壁の方向を向いてレスポンスするという異常な光景なのですが感想は死ぬほど欲しいが面と向かって褒められると「フヒッ」となってしまうタイプにとっては、このぐらいがありがたかったりします。
しかし、ひとりごととはいえ「相手に聞こえているクソでかひとりごと」なのは事実なので、相手が聞いていることは意識しましょう。
次に「リプライ」は明確に相手に「話しかけている」状態です、相手と交流をしたい、自分の感想に対し反応が欲しいと思ったらこの方法を取るとよいでしょう。
ただしXは「話しかけられても無視して良い」というまさに紅に染まった世紀末都市であり「気が向いた時だけ返事をする」という小悪魔バンビーナムーブが許される場なので、あなたのリプライに対し何の反応もないこともあるかもしれませんが、相手が気分を害したとかではなく「ここはそういうスラム街」なのだと思って気にしないようにしましょう。
またあまり返信をしないタイプの人にリプライを送り続けると「全然返信できないのに申し訳ない」と恐縮させてしまうかもしれないので、何度かリプを送って反応がなければ、ツイートか引用リツイートを使った方が良いかもしれません。
最後にDMことダイレクトメッセージですが、こちらはメールやフォームと同様、本人に直接長文激アツ感想を送ることができます。
幸い「相手にもフォローされてないと送れない仕様」らしいので、初手で檄文を送ってドン引かれるという事故は避けられます。
ただ、フォローされるぐらい仲良くなったとしても、果たして長文感想メールを送るべきなのかは意見の分かれるところです。
「反応を貰えれば嬉しい」というのは創作者共通としても「どの程度の温度で感想を貰いたいか」は「人による」としか言いようがなく、答えがありません。
少ない文字数でいい気分にするチャレンジ
ただ、趣味で二次創作をやっている人は、プロやプロ同人の人より「許容できる感想の温度は低め」と思った方が良いと思います。
プロにとってファンというのは生活を支えてくれている人であり、強火であるほど布教してくれたり、クリアファイルやアクキーを来世の分まで買ってくれたりするありがたい存在であり、そういうファンの期待という名のプレッシャーに応え、いつまでもファンでいてもらえるよう努力するのも仕事の内です。
しかし、好きな時に好きなものを描きたいという完全な趣味でやっている人にとっては「ファン」という言葉すら重く「〇〇さんの××も見てみたいです」はもちろん「次回作も楽しみにしています」すらプレッシャーになってしまいかねません。
作品をアップするたびに送られてくる長文感想に「自分はいつまでこの人の期待に応えられるのか、むしろ応えなければいけないのか」という重圧に耐えきれなくなり「しばらくお休みいたします」になってしまうのです。
あなたは昔「熱すぎる抱擁で相手の背骨ごと筆を折ったかもしれない」という実績があるので、長文かつ頻繁なメッセージ送信は封印した方が良いと思います。
作品も感想も長ければ良いというわけではなく「これ好き」「キンプリはいいぞ」など、一言で万感の思いを伝えることはいくらでもできます。
あなたも創作をするということなので「いかに少ない文字数で相手をいい気分にする感想を書くか」にチャレンジしてみてはどうでしょうか。
ちなみに「いいね」ぐらいでは引かれないとは思いますが「全てのつぶやきに爆速でいいねをつけている」だとさすがに引くかもしれません。
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自分でもおかしいな、という感覚なのですが、素敵な作家さんに素敵ですと感想を送るのが怖いです。
まほうのiらんど時代にHPを作ってこれが好きです!と自己主張したりこんなCPどうですか!ととにかく作品を作り続けてたのですが、他の二次作家さんに褒められるのが嬉しすぎてその作家さんに執着しその人の作品を隅から隅まで読み明かしべた褒めフォームを送信してしまいまして、それが原因かわからないのですが「最近プレッシャーがすごくて…」という言葉を残して二次創作を辞めていく人がたく…少しいました。
私自身二次創作という趣味が楽しくてこんなに良い趣味がほかにあるかな!?というくらい絶好調に楽しんでましたが自分の行動で相手の創作意欲を消し去ってしまった事実に打ちひしがれて半年前までなんの活動もできなくなってしまいました。
その半年前はちょうど時間が空いてヒマな時にインストールしたゲームにドハマりしてしまい、また活動をしたくなり、ツイッターを始めたのですが以前の記憶が蘇り、交流するのが怖いなというのが今の現状です。
ツイッターもよく知らず、「(交流せずにいいねで我慢するか…)」と控えめに始めたつもりが相手の呟きに「なんだか見られることが多くなりました(笑)」と発信してていいねも封印しているところです。
控え目に好きな二次創作を盛り上げるってどうやればいいのでしょうか…最近始めた古のオタクにおしえてもらえませんか…